「なぁ、知ってるか? あのシアリス・ハイラットがグライス・バーディガルの最期のときに、その場にいたって」
一人の青年がどっかりと椅子に腰を下ろしながら言った。
真白な長方形のテーブルをはさみ、それぞれ思い思いに青年を見る。
「シアリス様と……グライス? グライスってだれよ」
長い髪の少女が怪訝そうに聞く。
すると隣に座っていたもう一人の青年が、知らないのか?という表情で見る。
「グライス・バーディガル。21世紀の末に現れた暗殺者。女子供関係なく殺しまくった殺戮者」
言いながら青年はチラリと目の前に座るメガネをかけた青年を見た。
そしてこの話を切り出した青年もまた彼を見る。
「こいつがいっつもバーディがどうのこうの言って資料集めてんだろ。それだよ、それ」
少女は「ああ」と好奇の眼差しでメガネの青年を見る。
「ルディがお熱なあの美青年ね」
少女はテーブルのすみにあるボタンを押した。
白いテーブルの端からわずかに機械音が響く。そしてそこにくるくると光が旋回して背広をきたうさぎが現れた。
立体映像である。
「おまえ、またこんな変なの設定したのかよ」
愛らしいうさぎの映像を見て、青年たちはため息をつく。
少女は無視してうさぎに話しかける。
「グライス・バーディガル」
すると一瞬後、うさぎは消え、一人の青年の立体映像が現れた。
銀髪に深い青の瞳。均整の取れた体躯。精悍な頬、整った顔立ち。
少女が美青年と言うだけのことはある見目をしている。
だが、ただの立体映像であるのに、その目が宿す暗さ、その表情に宿るなにか強い意志のようなものが伝わってくる。
「聖シアリスがバーディの最期の場にいたのは偶然だ。帰宅中のことだったらしい」
メガネをかけた青年・ルディがそっけなく言った。
話をきりだした青年はややつまらなそうに口をすぼめる。
「なんだ、やっぱ知ってたか。オタクにはかなわんなー」
笑いながら言う友人にルディはむっとするでもなく、黙ってコーヒーを飲む。
「にしてもこんなカッコイイ人が暗殺者なんて〜。私も狙われてみたいかも〜」
少女が立体映像を見ながら笑う。
ルディを外した二人の青年たちも笑いながら、少女を見る。
「金貰っても、お前なんてうるさそうなの殺したくねーよ」
「なによーっ」
「そうそ」
盛り上がる三人。
そんな三人を無表情に見つめるルディ。
そして静かにルディが言う。
「バーディはどんなに安い金額でも依頼を引き受けた。硬貨1枚でもな。……バーディは殺しが趣味だったから、暗殺者になったんだ」
たんたんとした口調のルディに三人は黙り、立体映像のグライス・バーディガルを見る。
悪魔、とも言われる男。
なにか急に寒気がして、少女はその立体映像を切った。
「…でもさ」
青年の一人が呟いた。
そして一つの名を告げる。
新たに浮かび上がる立体映像。
一人の青年の姿。
銀髪に深い青の瞳。切れ長の目は常に優しく細められている。その頬はいつも優しい笑みを浮かべ、雰囲気はあくまでも穏やか。
聖シアリス。
「この二人って同じ時代に生まれてんだよな」
青年が言って、ルディは聖シアリスの姿を見つめる。
「不思議じゃねー? 一方は聖をつけられるほどの善で一方は悪魔とまでいわれる悪。なんかさー不思議」
「そうかー? たまたまだろー。聖シアリスが生まれたのは奇蹟に近いようなことなんだろうけどさー。悪い奴なんてゴロゴロしてんじゃん」
二人の青年は互いにその話を続ける。
ルディは興味なさげに古い書物に目を落とす。
しばらくして「うそっ」と少女の声があがった。
三人の男が見ると、少女は立体映像に付随している音声案内を聞いていた。
少女はシアリスの横にもう一度グライスの映像を出す。
少女はルディを見た。
「ねぇねぇ、この二人が同じ地区の同じ年の同じ誕生日だってこと知ってた?」
二人の青年がへぇ、と相槌をうつ。
ルディは曖昧に頷く。
聖シアリスの誕生日、11月6日。その日は祝日にまでなっているから、否応なしに知っている。
それにグライス・バーディガルの誕生日は、周りからオタクと呼ばれるほどその関係資料を集めているのだからルディにとっては知ってて当たり前のこと。
ルディにとって少女の発言は、だからなんなんだ、ぐらいの気持ちだった。
「バズの気持ちわかるかも〜」
少女がいくぶん興奮したように、青年の一人を見る。
バズとはこの話を切り出した青年。そして『不思議じゃねー? 一方は聖をつけられるほどの善で一方は悪魔とまでいわれる悪。なんかさー不思議』と言った青年。
「ほんと、なんか人生って運命なんだね」
「なにが?」
男たちは女の…いや少女リアのいうことは突拍子もないということ知っているから、なにを言い出すのかと半ば胡乱そうに聞く。
「だってさ」
少女リアは愛らしく微笑む。
「まったく同じ誕生日に生まれたのに善悪に分かれちゃって」
バズの発言とよく似た意見。
「だってもしかしたら」
それは運命の言葉。
それは悪魔の言葉。
「聖シアリスじゃなくて聖グライスだったかもしれないじゃない?」
リアのその一言にバズは「グライスはついてなかったなぁ〜」と笑い、もう一人の青年トゥイは「あほらし」と呟く。
リアとバズは人生について語り始めた。トゥイは面倒そうに、だがそれでもなにかと相槌をうっている。
そしてルディは一人沈黙していた。
ややしてルディが立ち上がる。残っていたわずかなコーヒーを飲み干す。
リアがルディを見上げる。
「もう戻るの?」
バズもトゥイもルディを見た。
「ちょっと、用ができた」
短く言って、ルディは部屋を出て行った。
2070年、世界は一つに統合された。
国の境をなくし、すべてが一つとして生まれ変わったのだ。
そしてその中心地である新都市neo-earth。現在西暦2203年。
ルディはneo-earth第7地区にある、都市名と同じ『neo-earth・college』という大学に通っている。この大学は第7地区すべてが敷地になっていて、世界中から学生がやってきている。
ルディは、無機質な廊下をしばらくあるき、その壁に連なるドアのひとつにキーカードを差し込み、中へと入った。
中はデスクがあるだけの、さきほどいた部屋よりも半分狭い。
学生一人一人に割り当てられている勉強室だ。
ルディはイスに座ると、デスクの側面に連なる数個のボタンを一つ押す。平面のキーボードが現れ、ルディは素早くキーを叩く。
それに答えるように、机の上に立体映像が現れる。
聖シアリス・ハイラット。
ルディはキーの一つを押し、独り言のように呟く。
「シアリス・ハイラットの生地。その誕生した病院名、時間…」
数個の条件項目。
カチカチ、と小さな機械音がし、そして機械的な音声が流れ出す。
「シアリス・ハイラット。西暦2073年11月6日、neo-earth第5地区グラウン・ハイラット家長男として誕生。11月6日第3地区『統聖病院』で午前1時32分、その生を受ける」
耳を澄ますルディ。表情は無い。だがその目は何かを深く考えるように宙を睨んでいる。
機械の音声は聖シアリスの出産時の状況などを伝え、途切れた。
ルディは再びキーを叩く。聖シアリスの映像は消え、今度は膨大な文字の列が浮かぶ。
ゆっくりと確かめるように目を走らせる。
しばらくして、その頬が緩んだ。
くっ……、小さな笑いが漏れる。
だが一瞬後、ルディは笑みを消して、ドアのほうを見た。
シュッ、と音がして、ドアが開く。
「ルディ…?」
小さな声がおずおずと部屋を覗き込むようにして入ってきた。
やや色素の薄い琥珀色、耳下ぐらいの長さの髪を揺らし小柄な少女はルディを見た。
ルディはちらりと少女を見ただけで、すぐに視線を元に戻す。
少女は所在無さ気にしながらルディのそばにやってきた。
「あのね…パパが今度の休みにうちにご飯食べにおいでって…」
大人しい性格を顕著に表す、か細い声。
少女マーノは自分のほうを見ようともしないルディに話しかける。
マーノとルディ、二人は幼なじみだ。そして家族ぐるみで仲が良い。
とはいっても二人はあまり仲がいいというわけではない。ただ単に、ルディがはっきり物事を言わないマーノの性格が嫌いというだけもあるが。
だからマーノはいつも用件だけを言って、黙殺されて、そしてその場を立ち去るのだ。
マーノは今もまた、いつものように部屋を出て行こうとした。
だが、それが珍しく呼び止められた。
「おじさんの仕事、上手くいっているか」
幼い頃だったら、無邪気にルディの後ろを付いて回ってる時もあった。
いつからか邪険にされていたから、話しかけられたことが嬉しくて、マーノは笑みを浮かべて再びルディの元へやってきた。
「うん。いろいろと大変みたいだけど」
「タイムトラベルの管理は大変だよな……」
60年前、タイムマシーンが実用化された。
当初の頃はまだ政府機関が主立って試用していたが、今では許可をとれば(それでも厳しい審査はある)タイムトラベルを一般でも楽しめるようになっていた。
だがそれと同時に多発するのが時空犯罪。
マーノの父は時空研究者であり、時空犯罪を取り締まる最高機関の幹部でもある。
「そうだね…」
「今度、仕事場を見学させてもらえるように、頼んでてくれないか」
話しかけながらも、ルディは相変わらず画面をみたまま。
マーノは視線が向くこともないのに、笑みを浮かべ続ける。
「言えば、いつでもいけると思うよ。…前も行ったことあるし。いつがいいの?」
「早い方がいい」
「じゃあ…明日?」
ルディは頷く。
わかった、と言うマーノの声に初めてルディは少女を見上げた。
マーノはルディの表情を見て、驚いたように少しだけ目を見開いた。
わずかだがルディの顔に浮かんだ笑み。なにか楽しそうでもあるその微笑にマーノは驚いたのだ。
自分に笑顔を向けられたことなどここ何年もなかったから。
「なぁ、マーノ」
今日はなにかいいことがあったのだろうか、とマーノは思う。
「お前が、もし今のお前の家じゃなくて、俺んちの子供として生まれてたら、どうなってたと思う?」
マーノはキョトンとした。
突然わけのわからないことを、言われて反応できない。
不思議そうにしながらも、その意味を考えながら答えを出そうとするマーノに、ルディが小さく笑った。
「そんなちっぽけなことじゃ、なんにも変わらんか…」
言ってルディがマーノから視線を逸らす。
マーノは久しぶりの幼なじみとの会話が終わるのが寂しくて、慌てて口を開く。
「な、なんで…?」
ルディはちらりマーノを見る。何かを考えるように視線を止め、そして笑う。
その笑みに、マーノは胸がざわつくのを感じた。
なにか、嫌悪感を覚える。
「聖シアリスは、金持ちの家に生まれ、何不自由のない暮らしをした。そして聖シアリスの父親は熱心に救済活動やらをしていた。自動的にシアリスは神の尊さを教え込まれる」
突然、ルディが訓示でも読むような口調で喋りだした。
「シアリスは三歳の頃神の声を聞いたと言うが、実際の真偽はわからない。だが、確実に言えるのはシアリスの生家ハイラット家が有数の資産家であり、慈善家であったことが、シアリスの人格形成に影響を及ぼしていたこと」
ルディは聖シアリスの名を呪文でも唱えるように呟く。
現れる聖シアリスの立体映像。
マーノはルディの真意がわからず、ただ圧倒されて話を聞いていた。
ルディは一呼吸置き、聖シアリスの映像を見る。
そしてシアリスの首を切るように、立体映像を手で払う。
映像は一瞬歪んだだけで、すぐにもとに戻る。
「もしも、聖シアリスがハイラット家に生まれずに、他の家で生まれていたら、お前…。シアリスは聖シアリスとなっていたと思うか?」
残酷な光を宿らせた眼差し。
薄く笑ったルディの、その目を向けられてマーノは立ちすくむ。
沈黙が訪れる。
ルディはマーノをじっと見つめたままだ。
マーノは必死で考えを巡らせ、口を開いた。
「人格……形成は…確かに環境によっても作られる…けど、でも…本人がもともと生まれ持つ性格にもよると思うし…。だから」
だから、シアリスは聖シアリスとなり得るはず。
マーノはそう言った。
ルディは、笑っていた。
嘲笑のような、マーノの意見を肯定するような、奇妙な笑みを浮かべていた。
鳥肌が、たった。
マーノは思わず自分の手を握り締めて、口を閉ざす。
10数年、付かず離れず一緒に育った幼なじみ。
だが今目の前にいる幼なじみはマーノの知らない人のようだった。
ルディはトン、とキーを叩く。
もう一つの立体映像が浮かぶ。
それはマーノがよく知るもの。
ルディがみんなからオタクといわれるほど熱中している過去の人間。
この部屋にくれば必ずといっていいほど、ルディはこの人物の映像を見ながら、いろいろな情報を収集している。
グライス・バーディガル。
マーノはそれを困惑した表情で見つめる。
「グライス・バーディガルについては、どう思う? お前もしってるだろう? その経歴は…」
マーノはグライス・バーディガルの生涯を考える。
「グライスは決して裕福な家庭でもない。育った環境は最悪。父親の失踪も、母の死も、叔父の虐待も、避けては通れないものだった」
もし、その環境が違ったら?
ルディは目で問う。
マーノは答えられない。
「もしグライスが裕福でとてもとても優しい両親のもとで、育ったら? それでも、グライスは無慈悲な暗殺者になると思うか?」
淡々とした口調が、やけに大きく響く。
マーノは床に視線を落とす。
なにも答えないマーノに、優しいルディの声が尋ねる。
「グライスが、ハイアット家に生まれても、グライスは暗殺者になると思うか?」
マーノは恐る恐るルディを見る。
ルディの話の意図はわからない。だが本能が警告を発している。
関わるな、と。
「わ……私は……グライス・バーディガルは…」
なぜこんなにも自分はビクビクしているのか、マーノは首を振る。
マーノは答えを導き出せず立たされている生徒のようだ。
そして問題を投げかけている先生であるルディはもう一度、同じようで違う質問を、言った。
「もし聖シアリスがグライスの家に生まれていたら? それでもシアリスは…」
聖シアリスであり得るか?
ささやくような声。
マーノは小さな声で、ようやく答えを言う。
「……………聖シアリスには……ならないかも…」
その言葉を聞きたかったのではないのか、マーノはどこかでそう思った。
実際ルディは満足げな笑みを浮かべている。
だが、ルディはわずかに首を傾げた。
「そうだな、聖にはならないかもしれない。だが、奇蹟とまで言われる存在がそうやすやすと消えるとも思えない」
やんわりと言うルディにマーノは微かな苛立ちを感じた。
ルディにたいしてそういった感情を持つのは初めてだった。
マーノは自分の感情に困惑しつつも、答えの見出せないこの押し問答に息苦しくなる。
それを知ってか知らずか、ルディはニヤリと笑うと、軽く手を上げた。その手を去れ、とでも言うように上下に振る。
「もうすぐ授業だ。お前も準備があるだろう。もう帰れ」
引き止めといておいて、あっさりとした言葉。
マーノは胸にもやもやを抱えたまま黙って頷く。
なにか気になりはしたが、もういい加減開放されたくもあった。
「善悪は入れ替われるか…。面白い実験だろう…」
ドアから出て行こうとしていたマーノの後ろでルディの独り言のような、同意を求めるような声がした。
マーノは振り返る。
だがルディは背中を向けていた。
マーノは言葉が出ず、黙って部屋を出て行った。
明日、見学に行くということをマーノは父親に連絡を入れなければならない。
だが躊躇う。
ルディとの会話が心に引っかかっていた。
しかし結局マーノは父親へ連絡し、明日の約束を取り付けた。
次の日、マーノとルディはマーノの父親の働くTSA(Time and Space Administration)にいた。
二人の胸元にはTSAを自由に見て回ることの出来るバッジがつけてある。もちろん立ち入り禁止区域もあるが、おおよその施設は見学できる。
それはマーノの父がTSAの幹部であることもあるし、ルディが優秀で信頼に足る人物と認識されているから。
そしてルディもまた、自分の評価が高いということを知っている。
ルディはウロウロとしているマーノを放っておいて、まるで関係者かのような顔で歩いていた。
前にも来たことがあるし、事前に見取り図をみているから、ルディはTSAの構造を把握していた。
目的地は一つ。
タイムワープ(タイムトラベル)をするための部屋。
TSAには実地調査などのために使用されるタイムワープ室が多くある。この部屋は一般が使うことはできない。TSAに入ることさえ一般人は許可を得なくてはならないのだから、当然ではあるが。
だが、一度TSAに入ってしまえば、タイムワープ室に入るのはそう困難ではない。
今はもう使われなくなった旧式のタイムワープ装置を置いてある部屋などは、人がいることもあまり無い。
ルディはそういう部屋を選び、人気が無いのを見計らって、一つのタイムワープ室へと侵入した。
機械だけの、閑散とした部屋をルディは見渡す。
部屋は二つに仕切られている、ガラス戸を挟んだ奥の部屋がタイムワープのための場所。
ルディは裏ルートで入手した、たいていのものなら開くことの出来るキーカードを、刺し込み、奥へと進んでいった。
ルディの世代はタイムワープの知識は常識的なこと。
旧式のタイムワープ装置の前に立ち、ルディはタイムワープのための準備を始める。
そして、その時、
「…ル……ルディ…。なに…してるの」
小さな気弱そうな声が、それでも咎めるように響いた。
一瞬ルディの手が止まる。
だがルディは顔色一つ変えず、声の主を確かめようともしなかった。
そんなルディをマーノが困惑した顔で見つめ、立っている。
「ほんの数十秒のタイムトラベルさ。申請が面倒だったからちょっとここのを借りるだけだ」
なんの悪びれもなく言うルディ。
ルディの指が素早く、行き先の設定をしていく。
マーノは一歩二歩、ゆっくりと近づき、そして息を呑むようにして訊いた。
「どこに、いくの」
何も答えないルディ。
マーノの中に渦巻くのは、一つの会話。
それは昨日のルディの話。
そしてルディが最後に言った、言葉。
『善悪は入れ替われるか。面白い実験だろう』
実験―――――――?
なにを対象にして?
なにを使って?
なんの実験?
タイムワープの準備を終えたルディが、ようやくマーノを振り返った。
冷たい笑みをたたえ、青年は呟く。
「神は、いるのか」
理解できない。
到底考えが及ばない。ただ胸の中で大きく警鐘が鳴る。
マーノの目が、ルディの手がタイムワープをするためのボタンに伸びてゆくのを見つめる。
笑っているルディ。
すぐ戻ってくるさ、そうルディは口だけを動かして言った。
マーノの凍り固まっていたように動かなかった足が、動き出す。
ルディの指が、ボタンに触れる。
一瞬の後、ルディの立っていた空間が歪んだ。
時空が、開く。
時と時が、結ばれる。
そして――――――――部屋の中から人の気配が、消えた。
2003/1/25/sat.

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