Bitter Sweets
13 - 12月14,18日 恋愛フラグは誰に立つ?


「25日めっちゃくちゃ楽しみー!!!」
 遥が目を輝かせ歓声を上げる。
「そうだね〜。イケメンと一緒のクリスマスなんてなかなかないしね。でも遥、彼氏はいいの?」
「いいのいいの〜。イブに会うし、次の日プチ旅行に行くから」
「あっそ。相変わらずラブラブなのね」
「ふふふ〜」
 由宇と遥の会話を楽しく聞きながら、美冬はお弁当を食べていた。
 いまは昼休み中。教室で机を二つならべ三人で昼食をとっている。
「それにしてもさ、なんかやたら接近してない? あのイケメン二人組に! クリスマスの予約もとっちゃうし!」
 遥が美冬を覗きこんでくる。
「接近って……。たまたまだよー。スイーツが縁で親交が深まってるかんじ? クリスマスひまなんじゃない? 和人も」
「スイーツって。そんなに美味しいんだ? 玲くんのケーキって」
 由宇が苦笑しながらパンを頬張る。
「うん! めっちゃくちゃ美味しいよ! 家の分のクリスマスケーキも頼んじゃったもんね!」
 どんなケーキなのかな、などとテンション高くわくわくしている美冬に由宇と遥は顔を見合わせる。
「……美冬さぁ。あんた、食べ物のことばっかりでいいの?」
 由宇が不憫なものでもみるかのような眼差しをむけてくる。
「え、な、なんで?」
「なんでって! この前も言ったけど、やっぱり和くんって美冬に気があるんじゃないの? 食べ物のことばっかりじゃなくってさ、女子高生なんだから恋のひとつくらいしようよ!」
 拳を握って遥が強く言ってきた。
「こ、恋〜? いいよ。別にアキのケーキさえ食べれれば」
 戸惑いながらもそう言うと、由宇と遥はそろって大きなため息をつく。
「つまんなーい。たまには恋バナでも聞かせてよ」
 頬杖ついてぼやく遥に、
「しょうがないよ。美冬はお子ちゃまなんだから」
 無駄無駄と手を振る由宇。
「ちょっと! そんな言うことないでしょー? いまはまだ恋してないだけだよ! 私だって彼氏……いつかはできるはずだし!」
 曖昧に言うと、2人はまたそろってため息をついた。
 美冬はムッとしつつ心の中で呟く。
(私だって恋くらい! してやるー! いまはとりあえずアキのスイーツ優先だけどさ。そいうえばアキの……)
 笑顔が可愛かったな――――。
 ふと浮かんできた想い。
 ぼうっとして、一瞬後、美冬はいま自分が考えていたことにうろたえて、そしてそれを二人に気付かれないようにするためにお弁当を勢いよく食べだした。




***




 金曜の放課後、美冬は駅前のコンビニで和人を待っていた。
 由宇と遥は「一緒に行こう」という美冬の誘いをあっさり断ってもう帰ってしまった。
 ため息をつきながら雑誌コーナーでファッション誌をチェックする。
「みーちゃん」
 だがすぐに肩を叩かれた。
「和人」
「お待たせ」
 振り返って、にこり笑う和人と、その横をちらり見る。だがアキの姿はなかった。
「由宇ちゃんとハルルは?」
「帰ったよ。アキは?」
「今日はフェアリーの手伝いだって」
「ふ〜ん」
 和人が変わらず笑顔だから美冬も笑顔で応える。
(由宇と遥、いても良かったんだよね!? あ〜、2人っきりかあ)
 和人がイヤなわけではないが、遥から散々『気がある!』発言をされて、つい意識してしまうのだ。
「じゃあ行こうか」
 和人に促され頷く。コンビニから出ようとしたとき「あ」と、和人が呟いた。
「ピザまん食べる?」
「へ?」
 美冬がポカンとすると、和人はクスリ笑った。
「みーちゃんイコールピザまんのイメージ」
 ほんの少し目にからかいの色を宿して和人が顔を覗きこんで言う。
 ピザまんがイメージの女子高生って!という恥ずかしさと、目前にある眉目秀麗な和人に顔が真っ赤になってしまうのがわかった。
「かわいいね、みーちゃん」
 くすり和人が笑う。そして「行こう」と優しく引っ張られてコンビニを出た。
 そう、手を引っ張られて。それはイコール手を繋がれている状態で。
(……………あ、あれ? なんで手を繋いでるんだろう。友達って手を繋ぐのかな……)
 とりあえず平然を装おうと必死で、頭の中は軽くパニックな美冬はちらちらと和人の横顔を見る。
「今日はさ、妹の誕生日プレゼント買いたいんだ。それでみーちゃんに見立ててもらおうと思って。やっぱり女の子が選んだもののほうが妹も喜ぶだろうし」
 繋いだ手のことにはまったく触れず、和人は今日誘った理由を話してきた。
「そ、そーなんだぁ。妹がいるんだね。誕生日はいつなの?」
 和人の手のぬくもりが伝わってきて意識がそこへ集中してしまう。だが手を離すこともできないし、なんで繋いでいるのかと聞くこともできなくって、そのまま会話を続けてしまう。
「23日なんだ。いま中2なんだけど、あと一日遅かったらイブだったのにーっていつも言ってるよ」
 妹のことを思い出しているのか和人の表情はいつにもまして穏やかだった。
「いいお兄ちゃんなんだね」
 なんとなくそう思ってぽつり呟くと、和人は目を細めて笑った。
 それから電車に乗り、繁華街へと繰り出したのだった。





「みーちゃんのおかげで可愛いのが買えたよ」
 買い物を終え、休憩がてらにカフェに入っていた。
 美冬は口に運びかけていたショートケーキを寸前で止め、苦笑する。
「私なんてなんにも役立ってないよ〜! 和人が迷ってるものの中から選んだだけだし」
「そんなことないよ。俺だけだったら選びきれないしね」
 雑貨屋に何件か入って選んだのだが、和人は女の子の好みがよくわかっているのかセレクトしたものはどれも可愛らしかった。その中からほぼ自分の好み半分で美冬が決めたのだ。
「そうそう、これ」
 ハイ、と差し出されたのはさっき立ち寄った雑貨店の名前が書かれた袋。小さいリボンが付けられている。
「え? これ?」
 きょとんとしながらとりあえず受け取る。
「今日付き合ってくれたお礼。大したものじゃないけどね」
「ええ!? いいよ、そんなの! 私ほんとなにもしてないしっ」
「いやほんと大したものじゃないから。みーちゃんに合いそうで可愛かったから買いたかっただけっていうのもあるし」
 にこにこ笑顔で和人は「開けてみて? 気に入るかはわかんないけど」と促してくる。
「うん」
 袋をあけるとストラップが入っていた。
「可愛いー!!」
 思わず叫んでしまう。金のチェーンにピンクのマカロンと白と茶のプチチョコ。そして立体的な赤いハート。マカロンにはアクセントでラインストーンが飾られている。スイーツデザインのストラップだった。
「ほんとに可愛い!」
 目を輝かせて言うと、「気に入ってもらえてよかった」と和人が嬉しそうに頬を緩める。
「ありがとう、和人! つけてみていい?」
「もちろん。やっぱりみーちゃんにすごく合ってる」
 そうかな〜、などと可愛いストラップにうかれつつ携帯につけながら、美冬はふと気付いた、
(……スイーツのストラップ。……和人もやっぱり私が食い気ばっかりって思ってるのかな。なんかそれって……)
 自分の女度の低さにため息がでてしまう。
「どうしたの? やっぱり気に入らなかった?」
「え? 違う違う。ほんと気に入ってるよ! めちゃくちゃ可愛い!」
 慌てて笑顔を浮かべながら取り繕う。だけど、とさりげなさを装いながら美冬は勇気を出して訊いてみる。
「ねー、和人」
「うん?」
「私ってさ……。やっぱり食い気だけの女かな?」
 笑みが多少ひきつってしまった気がする。
 和人は一瞬目を点にして、すぐに吹き出した。
「そんなことないよ。たしかにみーちゃんは食べているときが輝いているけど。でもそれ抜きにしたって全体的に可愛いし」
「………」
 さらりと言われたことばに呆けてしまう。
(可愛い………? そっか、和人は目が悪いのか……)
 客観的にみて自分の容姿が秀でて良くもなければ悪くもないと自覚している。
「なに、信じてないの?」
「いやー……。私可愛くないしね」
 あはははーと乾いた笑みをこぼせば、和人は目を細めて美冬のほうへと身を乗り出した。
「みーちゃんは可愛いよ。天然ぽいところとかいろいろね。もちろん見た目も」
「もー、和人ってば……」
 イケメンにそんなことを言われて恥ずかしくならないはずがない。今日何度目だろうか、顔を真っ赤にさせていると不意に和人が近づいた。
 そして―――。
「…………」
「かわいいよ、みーちゃん。俺のタイプだしね♪」
 にっこり爽やかに、だがどことなく色気を含んだ笑み。
 美冬は固まったように和人を見つめ、少しして恐る恐る右頬に手を当てる。
(………あれ? いま……。いま……ほっぺに……)
「チュー!?」
「ちゅう?」
 思わず叫ぶ美冬に、わざと素知らぬふりを装い怪訝そうに問い返す和人。
「……ちゅー……かが食べたいな、なんて」
 フォローさえも食い物ネタか!、と内心自分に突っ込みつつ美冬は和人から視線をそらした。
 今日一番顔が熱くなっていくのを感じながら。
(おいおいおいおいおいおーい! まじでこの方、私に気があるんですか!!??)
 そう内心パニックMAXで叫びながら。
 そしてその後、なにを会話したかもわからない状態で美冬は和人と別れ家路についたのだった。