『世界初』









 地球が誕生してしばらくたった頃、神様は二人の人間をお創りになられました。
 一人は男、そして女でございます。
 二人はやわらかく、あたたかな陽のさす、夢のような楽園で暮らしておりました。
 太陽が昇り、日が沈み、夜が訪れる。
 二人はその時の流れるままに、過ごしておりました。
 そして時はたち、ちょうど一年が経った頃でございましょうか、女が懐妊したのでございます。
 世界初の母となったのでございます。
 ですが、なにぶん世界初。訳もわからないつわりに苦しんでおります。
 男も苦しむ女の姿に心を痛めておりました。
 そして、また日が経ち、ついに赤子の生まれる日がやってきたのでございます。
 女は世界初の出産を体験することとなりました。
 その痛いこと。
 あまりの出産の痛みに、なんの苦労も知らない女は絶叫をあげ、のたうち回ります。
 男は女に何もしてあげることが出来ず、ただ困ったように歩き回っているだけでございます。
 しばらくして女が大きな悲鳴を上げました。
 それと同時に世界初の産声が上がりました。
 男は産声を上げる赤子を恐る恐る手に取りました。
 男は世界初の父であり、世界初の赤子を取り上げた人となりました。
 赤子を女に見せますと、本能からか、泣いてる赤子を安心させるように優しく微笑みました。
 ですが、その二日後、女は産後の肥立ちが悪く、死んでしまったのです。
 世界初の死人となった女を、世界初妻を亡くした男が嘆き悲しみます。
 涙は枯れることをしらないように、とめどなく流れていきました。
 そうして男は泣き疲れ、いつの間にか寝てしまったのでございます。
 次の日、いつものように太陽が昇り、男は目を覚ましました。
 うつぶせに寝ていた男は起き上がると同時に、低い悲鳴を上げました。
 添い寝をしていた赤子がぐったりと、死んでいたのでございます。
 寝ていた男の下敷きとなり、窒息死したのでございました。
 男は世界初の殺人者・子殺しとなったのであります。
 男は赤子を揺り動かしますが、動くわけがございません。
 大きな衝撃に男はふらふらと行くあてもなく楽園を後にしました。
 楽園の外は一面が砂漠で、楽園で豊かな暮らしをしてきた男には耐え切れないものでございます。
 いつしか男は疲れを感じ、砂の上に腰を下ろそうとしました。
 ですが、男はやわらかい砂に足を取られ、バランスを崩し、大きなくぼみの中に転げ落ちてしまったのでございます。
 そして、それを待っていたかのように怪物のようなものが、くぼみの中から現れました。
 悲鳴をあげる間もなく、男はその怪物に食べられてしまいました。
 そこは蟻地獄でございました。
 男は世界初の蟻地獄に落ちて死んだ男となりました。
 一連の出来事を、天上で見ていた神様が憂鬱そうに大きなため息をつきました。
 そして、ポツリと呟きました。
「世界初の悲劇」
と。