『SWEETS』





 食事の最後に出されたのは樹にはコーヒー。綾にはデザートプレート。
 白のスクエアプレートにミニサイズのパフェ、ガトーショコラやフルーツなどが彩りよくのっている。
 それを見て顔を輝かせる綾に、樹はそっと笑みをこぼす。
 コーヒーに口をつけながら見つめていると、綾はケーキを一口食べ大きく頬を緩めた。
 耐えきれなくて思わず失笑する樹。
 二口目を口に運ぼうとしていた綾がきょとんとして視線を向ける。
 樹はテーブルの上に右手で頬杖をつき、問いかける。
「美味しい?」
 手にしたフォークをちらり横目に見ながら、綾がなぜか頬を赤らめながらうなずく。
「とっても美味しいです」
 言って、綾はおずおずと二口目を食べた。
「よかったな」
「……はい」
 食べ続ける綾を眺めていると、ちらちらと綾がこちらをうかがっているのがわかった。
「どうした?」
 そう訊くと、綾は一瞬躊躇うように視線を動かしながら呟いた。
「あの……先生……そんなに見られてたら食べづらいんですけど」
「気にするな」
 さらり返すと、困ったように吐息を漏らす綾。
 仕方がないといったふうに、どことなく緊張した面持ちでデザートを口に運びだす綾にたまらず笑みがこぼれる。
「先生……っ」
 なんなんですか、と綾が軽く睨むように視線を向けてくる。
「悪い悪い。可愛いなぁと思って見惚れてたんだよ」
 真実そのまま。平然と言うと、一気に綾の顔が赤くなる。
 その様子がさらに可愛くて、もっと赤くさせたい、そう思うも綾の性格を考えて自重する。
 意外に気の強い綾。あまりからかえばきっと怒ってしまうだろう。
 まぁそれはそれで可愛いだろうが。
 そんなことばかりを考えながら、
「綾」
 愛しい名を呼ぶ。
「……はい」
 下の名を呼ばれることに照れているらしい綾は顔を赤くしたまま目元を柔らかく緩ませる。
 どんな表情でも可愛い。
 重症すぎる自分の気持ちに、内心苦笑しながらも樹は少し意地悪に目を細めた。
「さっきから“先生”って呼んでる。”樹”って呼べよ」
「あ……」
 綾は視線を揺らし、何度かまばたきする。
「あーや」
 暗に”呼んで”と催促するように見つめる。
「………樹」
 恥ずかしそうに、だが綾の凛とした声で呼ばれる自分の名が嬉しい。
 樹はふっと笑い、「ちゃんと呼べたご褒美」とプレゼントを差し出した。
 きょとんとする綾は怪訝に袋の中を覗き込む。
「卒業祝い。開けていいぞ」
「えっ」
 驚きながら、綾はラッピングされた箱を取り出す。
 リボンをほどき箱を開け、その瞳が嬉しそうに輝いた。
「気に入った?」
 綾に選んだのはふたつのハートが重なったペンダントトップのついたピンクゴールドのネックレス。
 プラチナとも迷ったがピンクゴールドのほうが色の白い綾には映えると思ったのだ。
「う、嬉しいですっ。つけていいですか?」
 満面の笑みを浮かべる綾。
「もちろん」
 言いながら樹は席を立つ。
 不思議そうに視線を向けてくる綾のそばに行き、ネックレスを手にする。
 そして綾の首元にネックレスを回した。
「せ……い、樹? あの自分で……」
 戸惑う綾に返事をせず、ネックレスフックを留める。
 留める際に綾のきれいな髪が手に触れて、その心地よさに樹はそっと一束つかんだ。
 それに気づいた綾が微かに肩を震わせた。
「……あの」
 首筋までもが赤く染まっていっている。
 一瞬よこしまな考えが過りつつ、今日のところは髪にキスを落とした。
「い……つき?」
 ちらり窺うように綾が見上げてくる。
 ぽんと綾の頭に手を置いて少し撫でる。そして樹もまた覗きこむように見下し、笑った。
「似合う」
 テーブルの端に少し寄りかかるようにし、綾の首元につけられたネックレスに触れる。
 どこまで赤くなるのだろうか。というくらいに綾の顔がさらに赤く染まる。
「ありがとうございます……」
 うつむきがちに綾は言った。恥ずかしそうで、でも幸せそうに緩んでいる頬。
 それも全部、学校では見ることのできなかった表情。
 たまにちょっかいをかけてはいたが、深く関われてたわけじゃない。
 これからはいろんな綾の表情を見ていけるのだ。
「綾」
 はい?と顔をあげた綾にキスを落とす。
 そしてその首筋を引き寄せ、自分の胸元に綾の顔を埋めさせた。
「せっ…せんせ」
 ひどく慌てたような上擦ったような綾の声。
「まーた”先生”に戻ってるし」
 そう言いながらも、それはそれでいいと本当は思っていたりもする。
 今日、ようやくはじまったばかりなのだから。
 これから二人で進んでいけるのだから。
「お前の全部―――俺に見せろよ」
 きっと完熟したトマトのように赤くなってしまうのだろう。
 そんな綾の表情を想像しながら、樹は綾の耳元で囁いたのだった。




 おわり☆
 おまけのおまけ




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2009,7,31