Bitter Sweets
01 - 12月1日。出会いはピザまん争奪? そして?

「さむーい」
 首に巻きつけたマフラーに首を埋めるようにして五十嵐美冬は呟いた。
「そ? 今日は暖かいほうじゃない?」
 隣を歩く友人の白井由宇が笑う。
 確かに天気予報では昨日よりも1度高い気温だった。
 だが寒がりな美冬にとっては寒いものは寒い。根っからの冷え性なのだ。
 美冬という名のとおり冬生まれだが、そんなもの体質には関係ない。
「あ! あそこのコンビニよっていい? ピザまん買いたい!」
「はぁ? 朝っぱらから?」
 いま二人は高校への登校途中だった。
 ついさっき駅の改札を抜け、美冬の視線はロータリー傍にあるコンビニに向けられてる。
「ホットなものが食べたいのー!!」
 美冬はそう言うと小走りでコンビニへと駆け出した。そして由宇は苦笑しながらそのあとを追った。

 朝のコンビニは高校生やOL,サラリーマンで溢れている。
 美冬はピザまんがあるかをチェックしてすぐさまレジへ向かう。
 ピザまんは一個だけあった。
 ピザまんの中のとろけたチーズのことを考えながら美冬は男子高校生の後ろに並んだ。
 と、
「ピザまんひとつ」
 その男子高校生が言った。
「ええええー!」
 思わず声を上げていた。
 それに振りかえる男子高校生。
 155センチの美冬より20センチ以上は高そうな身長。明るい茶髪、整った顔立ち。全体的に漂う冷たい雰囲気。
 イケメン……な男子高校生と視線が合う。
「あ?」
 なんだよ、とでも言いたげな眼差しで、イケメンが低い声で言った。
「……ちっ」
 美冬は見ず知らずだというのにピザまんをとられたショックで舌打ちする。
 ぎろり、とにらみをむけられて、その怖さに美冬はさっとうつむいた。
 そして自分の番が来た美冬は――――悩んだ末にアメリカンドッグを注文。
 ピザまんを求めていた胃が、同じ西洋風ではあるもののアメリカンドッグで癒されるはずもなく。
 ピザまんが食べれなかった悔しい朝となってしまった。
 でもそれは美冬にとって、気付いていない運命の出会いの――――始まり……だったのかもしれない。


* * *


―――翌2日。

「あったかくて、ふかふかでとろけたチーズとピザソースが絶妙〜♪」
 美冬はピザまんを頬張って、幸せそうに叫んだ。
「……ちょっとー。恥ずかしいから叫ばないでよー。ていうか、昨日放課後も食べたじゃない」
 由宇がうんざりしたように横目に見てくる。
 昨日と同じように朝の通学時。きのうは買えなかったピザまんを今朝はゲットして歩きながら食べていた。
「きのうのリベンジだよっ! 朝食べたかったの、だから放課後のはカウントされないんですー」
「どんだけピザまん好きだよ……」
 由宇のさらに呆れきったような呟きなど気にせず、たったの三口目で美冬は残りのピザまんを口に放り込む。
(あ〜! 幸せ!)
 もぐもぐと口を動かしている―――、と。
「でけー口……」
 ぼそりと右横から男の呟き声が聞こえてきた。
 きょとんとして顔を向けると、少し離れたところを二人の男子高校生が歩いていて、一人が美冬のほうを冷たく見ていた。
「………んあ!」
 ごくり、と飲みこみながら、それがきのう美冬のピザまんを奪った男だということに気付く。
(いま、でけ―口って言ったのって、もしかして私のこと!?)
 きのうのピザまんの恨みもあってギッとにらむと、男子高校生はせせら笑うように口を歪めて顔をそらした。
 そして友人らしき男と、ちょうど分岐点である二本道の右道へと逸れていった。
 美冬はムッと頬を膨らませて去っていく男の後ろ姿をにらみつづける。
「なに、どーしたの?」
 立ち止った美冬に気づいた由宇が首を傾げてくる。
「きのう私のピザまん買って行ったやつが! 通り過ぎざまに『でけー口』って!!!」
「あはは! まじで?! まー事実だからしょうがない。っていうか、あれ、西南高だね」
 美冬たちの通う高校は私立の共学校・王藍学園。そして西南高は徒歩10分という近距離にある男子高だった。
「事実って、ひどい!」
「はいはーい。ま、気にしない気にしない」
 さっぱりあっさりサバサバな性格の由宇は笑ってそう言うとさっさと歩きだす。
 美冬は「気にするよ!」とぶつぶつ言いながら由宇のあとを追ったのだった。


 高校同士は徒歩10分の距離。
 だけど二人の距離は――――まだ無限に遠い?