like or love or...







『TEXT.10』



「こちらへどうぞ」
 淀みなく、洗練された身のこなしで案内をしてくれたウェイターは椅子を引いて綾に座るよう促した。
 腰を下ろし礼を言うと、ウェイターボーイは一礼を返し部屋を出て行った。
 ヒカルの知り合いがしているという店は有名なフレンチの店だった。
 案内されたのは個室で4人がけのテーブルにはピンクの薔薇が活けられている。上にはシャンデリア。
 予想外の場所と部屋の狭さに困惑する。
 高校生の集まりにフレンチ? そんなセレブな高校じゃないわよね。
 しかも人数はいらないよね?、と綾は疑問ばかり考えながら携帯電話を取り出しヒカルの名を表示させた。
 とりあえず再度確認してみようと、受話ボタンに指をかけた瞬間、バサリと頭になにか乗った。
 何が起こったのかわからず顔を上げようとして、つんとかぐわしい香りと色彩豊かな花々が目に映った。
「早かったな」
 そして響いた声。
 綾は固まり、「えっ?!」と驚いて立ち上がった。
 振り向くと大きな花束を綾の頭上から退かして持ち直す樹の姿。
「せ、先生? な、な……。どうしたんですか?」
「どうしたって、卒業祝だろ?」
 樹はニヤリと笑う。
「そ、そうですけど。先生は来ないって聞いてたから」
「あー、あいつらのなんか行くわけないだろ」
「あいつら?」
「生徒会の。こんな大事な日にあいつらにかまってるひまはないからな」
「……先生、状況がよくわからないんですけど」
「お前鈍いな」
 からかうように楽しげに目を光らせる樹を見て、急に懐かしさを感じた。
 なにが懐かしいんだろう、そう思って樹を見ていると不意に樹が動いた。
 そして―――。
「……っせ、先生!!!????」
 綾は口を押さえ、飛びのく。
 いきなり樹が間合いをつめてキスしてきたのだ。
「なにするんですか?!」
 声が裏返り、一気に頬が熱くなる。
「なにってキス」
「キスって」
「なんだ、お前まさか忘れたの?」
「は?」
 呆ける綾に樹が再び間合いをつめてくる。
 樹は目を細めて綾の耳元に唇を寄せる。
「約束しただろ? "卒業したら俺のものになる”って」
 甘く囁かれた言葉。
 さらに綾は呆けて樹を見つめた。樹も笑みをたたえたまま綾を見つめ、そして大きく吹き出した。
「面白いなー、やっぱお前!」
「先生!?」
 からかわれたような気がしてムッとしかけた綾の目の前に花束が差し出された。
「卒業おめでとう」
 樹はひどく楽しそうで、そしてその目は―――ひどく優しくて。
 ようやく綾は状況を飲み込んで、涙を一滴零した。
「せ……せんせい」
「樹」
「………い…つき?」
「そう。あーや」
 優しくて暖かい声と温もり。
 そっと引き寄せられて樹の腕に抱き締められる。
「待ってた?」
 "あの日"から一年。
「待ってました」
「せん……。樹は?」
「死ぬくらい待ってた」
 ぎゅうっと樹の腕に力がこめられ、綾は樹を見上げる。


「好き?」
「好き。好き?」
「好き」


 ―――そうして、またキスが落ちた。
 ひとつ、ふたつと長かった月日を埋めるように、何度もキスをしたのだった。



 like or love or............love?...end.


 


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2009,3,31