『第25話』
なにを言われたのか、わからなかった。
目の前にいる少女が、頬を染め、なんと自分に言ったか。
「私、ヴィックのことが好きなの」
再度、少女は、サラはそう言った。
真剣な熱を帯びた眼差しが真っ直ぐにヴィクトールを見つめている。
「ヴィックが…………血のつながった……兄だとしても」
続く言葉にさらに混乱する。
「好きなの」
サラは、そう言って微笑んだ。
湧き上がってくるのは、なんだろう。
戸惑い。
困惑。
そして――――嬉しさ。
なぜサラが自分が兄であると知っているのか。
気になるが、向けられた微笑にどうでもいいとさえ思ってしまう。
望みなど、ひとかけらもなかった。
その笑顔を見ているだけで十分だった。
だが、ありえないと思っていたことが目前にある。
「――――――――サ…ラ……」
震える声に、きょとんとするサラ。
どうしようもなく、胸が熱くなり、告げてしまいそうになる。
言ったところで、どうしようもないのに。
「サラ、僕は……」
ヴィクトールの目が潤み、熱っぽくサラを見つめた。
心拍数が上がっていくのを感じる。
告白して、けじめをつける。
だから、ヴィクトールからの返事のことまでは考えていなかった。
いや、ヴィクトールはマリスを愛していると思っていたから、彼が自分を想っているなどと、そんなことは考えもつかなかったのだ。
ヴィクトールがその手を伸ばし、サラの髪に触れた。
「僕は…………」
切なげに揺れる瞳に、胸が苦しくなる。
望みなど、ないと、あるはずない。
だけど―――――。
「僕も………君のことが――――」
なにを、言おうとしているのだろう。
言ってもどうにもならないのに。
報われることはないのに。
妹、なのに。
だけど―――――。
「サラのことが………」
夢のような一瞬。
だが、次の瞬間、サラの目が大きく開かれる。 驚愕を露にして――――。
『なぜ』
そう、サラの唇が動いた。
ヴィクトールは冷たく凍りついたサラの表情に、目を細める。
そしてサラの視線が自分を通り過ぎ、後方を見ていることに気づいた。
視線を追い、振り返った。
「―――――――な………ん…」
愕然と呆然と、なにも考えることが、できなかった。
アルバーサがいた。
今にも倒れそうな、土色の顔をし、立っている。
異様な光を宿した瞳がヴィクトールを映している。
そして、その手に握られた銀色の銃。
銃口はヴィクトールへと向けられている。
なぜ、どうして。
胸をよぎるのは、それだけ。
わかるはずもない。
アルバーサは嫣然と微笑んだ。
「やはり―――――生むべきではなっかったんだわ」
笑みを含んだ声に、寒気を感じた。
「だから、元に戻しましょう」
わからない。
困惑。
母はそう言って――――――。
引き金を引いた。
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