secret 62 恋、想い

「――――………っん」


息、苦しい。


「……ん……っ」



口の中に、苦いのに甘い香りが漂った。

そして、熱いモノが私の舌を捉えた。


「……っ、……ふ……」


きつく、抱きしめられてるのを、感じる。
激しく絡みついてくる舌と、鉄と―――煙草の香りが混じり合う唾液の味。
うすく瞼を上げて、それが先生のものだって、知る。
ぎゅっと後頭部と、背中と手がまわされてて、きつくきつく力を入れて抱きしめられてるのが、落ち着いた。
後ろのほうで、クラクションが派手に鳴っているのに気付きながら、キスをしてた。
それからしばらくして、鳴り響いていたクラクションや、横を通り過ぎる車からの冷やかしの声を聞きながら、先生はゆっくり離れていった。
ぼんやり、シートの背もたれに身体を預けて先生を見つめる。
先生の唇からは少し血が出てて。
私の口の中にのこる鉄の味が、それが理由だと知った。
でも先生はなにも言わずに、ひどく真剣な顔をしていて。
ぼんやり、私は先生を見つめるだけしかできない。
先生のキスが激しすぎて、身体がだるくさえあった。
こんな道の往来でキスするなんて。
なにを考えてんだろう。

バカな先生。

ばかな………のは――――私。


ゆーにーちゃん。

久しぶりに――――“発作″が出ちゃったみたいだよ。
もう、大丈夫だって、思ってたのにね?








しばらくして、先生は黙ったままハンドルを握って、車を発進させた。
私はただ窓の外を眺めることしかできない。
まさかこんなところで、先生の前で″発作″を起こしちゃうなんて思ってもみなかった。
それに―――、まだ頭の中がグチャグチャしてて、うまく考えがまとまらない。
先生きっと変に思っているだろうな、って思うけど。
何も言えない。
突然叫び出した私に、先生もなにも言わなくって。
十数分くらいして車が停まった。
ぼんやり見ると、私の住んでるマンションじゃなくって、先生のマンション。
あたりまえのように車は地下駐車場に停められて、先生は車を降りていく。
そして助手席のドアを開けた。
「降りれるか?」
らしくない、先生。
相変わらずさっきから真面目な顔をしてる。
それが私のせいだってわかるから、憂鬱になる。
全身がだるかったけど、頷いて助手席から降りようとした。
「無理するな」
でも優しくも厳しくもない、普通の声で先生は言うと、私を抱き上げた。
お姫様だっこ……。
「……あの」
自分で歩けるんだけどな。
「お前の足だと部屋に着くまでに時間かかりそうだから」
そう言って先生は私をお姫様だっこしたままエレベーターに乗り込んで、部屋まで連れていった。