secret 52 クリスマスパーティ・イブの夜

「はい。実優ちゃん」
そう言って捺くんに手渡されたのはチョコリキュールのミルク割りにアイスのせ。
お酒はもう4杯目で、もう十分って感じ。
身体がふわふわしてるし、顔も真っ赤になってるのがわかる。
ちょっとどきどきどきーって脈も速くなっちゃってるし。
「これ、かなりミルクで薄めにしてもらったから大丈夫だと思うよ。それにほら、バニラアイスがのってるからデザートみたいでしょ?」
「うん、ほんとだ。――――うわー、美味しい」
すすめられて一口食べて、バニラアイスが美味しくって頬が緩む。
チョコのお酒も甘くって美味しい。
「実優ちゃん意外とイケるんだね、お酒?」
「そ、そうか…な? でも、うん、かなりクラクラしてるよ」
「大丈夫? 帰りは送ってあげるからね」
「あ、ありがとう」
捺くんは私にぴったり寄り添うようにして座ってる。
私たちは二人掛けのソファに座ってて、ほかのみんなはそれぞれゲームやおしゃべりをしてた。
七香ちゃんは同じクラスの女の子とカウンターでマサ兄さんとおしゃべりしてる。
和くんはいまお友達と買いだしに行ってる。
買いだしに行くメンバーを決めるじゃんけんで負けちゃったんだよね。
それでなぜだか私と捺くんは2人片隅でソファでおしゃべりしてるんだけど、なんだか隣から捺くんの色気ムンムンな視線を感じて、ちょっと居心地が悪い。
それを誤魔化すように、チョコのお酒を一気に飲んだ。
でも、それがまずかったみたいで、いくら甘くってもお酒はお酒で――――。
急激にクラッとめまいがして、身体が揺れた。
「だ、大丈夫? 実優ちゃん」
「……う、うん」
大丈夫、なような、大丈夫じゃないような……。
なんだかクラクラ、ドキドキが一気に加速しちゃってる。
ちょっとヤバイかも。
「大丈夫じゃないよね? きつそうだもん。オレ送るから、もう帰ろう? 店ん中熱いしさ、具合悪くなってきたらのぼせちゃうかもだし」
ね?、とすごく心配した捺くんが見つめてくる。
「でも……せっかくのパーティだし」
「ここで倒れたりしたほうが大変でしょ。それにもう10時だし。そろそろお開きになるはずだから、大丈夫だよ。
それよりも実優ちゃんの体調のほうが大事! オレがいろいろお酒勧めたから……ごめんね?」
落ち込んだ様子で言う捺くんに、こっちこそ申し訳ない気分になっちゃう。
でも確かに捺くんのいうように、店の中は熱気がすごくって、熱くなってる身体にはちょっと気持ち悪くなっちゃいそうな気がしないでもない。
「……うん。帰ろうかな……。あ、でもタクシーで帰るから、捺くんは残ってて?」
「だめだよ! こんな夜遅くに実優ちゃんひとりで帰らせるわけないだろ?」
「……ん……」
「じゃ、行こう?」
捺くんに促されて、帰り支度をする。
そして七香ちゃんやみんな、マサ兄さんに挨拶をしてお店を出た。
外は店内とは正反対に冷たい空気。
ひんやりっていうより突き刺すような冷たさが、でも火照りきった身体には心地よくって、ぼーっとしちゃう。
「実優ちゃん」
捺くんがタクシーを止めてくれて、ぼーっとしたまま乗り込んだ。
タクシーはお店の中よりも温度が低そうだけど、暖かくて、眠くなっちゃう。
「寝てていいよ、実優ちゃん」
運転手さんに行き先を言っていた捺くんが、そっと頭を撫でてくれる。
優しい手つきに、「……うん」って、返事をして私はまどろんでしまった。



「着いたよ」
どれくらい走ったのかわからない。
軽く寝てしまってたみたいで、捺くんに優しく起こされた。
「……んー」
でも頭はぼんやりしたまま。
捺くんがお金を払ってるのはわかるけど、瞼が重くって開けれない。
眠くって眠くって仕方がない。
「実優ちゃん、大丈夫?」
ちょっと笑いを含んだ捺くんの声。
そして捺くんが身体を支えてくれてタクシーから降りた。
「歩ける?」
「だ、いじょう………ぶ」
頑張って答えたけど、大丈夫じゃない気もする。
だってすぐに意識が遠のきそうになっちゃうし。
「危ないなぁ」
やっぱり笑った声で捺くんが言って。
「………きゃっ」
突然身体が持ち上げられて、ちょっとだけ眠気が飛んだ。
驚いて捺くんを見たら、上に捺くんの顔。
どうやらお姫様だっこをされてるみたい。
「首に手をまわして、ちゃんとつかまっててね?」
女の子みたいに可愛い捺くん。
でも背は別に低くないし、こうして抱きあげられてると洋服越しに意外と筋肉質なのがわかる。
捺くんは私をお姫様抱っこしたまま、歩き出した。
そして片手でポケットをゴソゴソして――――ガチャッって鍵の開く音がした。
ん………?
あれ?
「……捺くん……。私…鍵渡したっけ?」
「ん? もらってないよ?」
「え? でも」
それじゃ、いまなんで鍵開けれたんだろう?
っていうか――――。
湧き上がってきた疑問に、あっさり捺くんが答えた。
「だって、ここオレんちだもん」
ぽかんとして見た捺くんは満面の笑みで。
「……え…えぇぇ!!!?」
一気に眠気が吹っ飛ぶくらいに私は叫んだ。
でもそのせいで頭がクラッとして、思わずギュッと捺くんにしがみついてしまっている間に私は捺くんのお家に連れ込まれてしまった。
抱っこした状態で玄関に上がった捺くんは器用に私の靴を片手で脱がせて、自分も靴を脱いで家に上がった。