secret 51 クリスマスパーティ・イブの夜

ピザやスナックとか軽食をとりながら、カクテルを飲んで、みんなで喋って楽しくって時間はあっという間に過ぎていく。
初めて会う子もいたけど、パーティのおかげかすぐに仲良くなれた。
「実優」
グラスが空になって、マサ兄さんになにか作ってもらおう。
そう思ってカウンターに行こうとしたら袖をひっぱられた。
「和くん、どうしたの?」
「ちょっといいか?」
「うん」
和くんに手を引かれてお店の奥に行く。
トイレの前で立ち止まった和くんが私を見つめて、黙り込んだ。
「和くん?」
どうしたんだろう?
不思議に思ってると、小さな紙袋を差し出された。
「………クリスマスプレゼント」
照明が暗いからはっきりとはわかんない。
でも―――たぶんちょっと照れたように微笑んでる和くん。
「ありがとう! いいの?」
「ああ。気に入るかわかんねーけど」
紙袋にはラッピングされた小さな箱が入ってた。
開けて見ると―――。
「………おそろい、だね」
なんかちょっと照れてしまって、少し顔が赤くなってしまう。
和くんがくれたのはピアスだった。
リボンモチーフで真ん中にピンクの石がついている可愛いピアス。
私から和くんにピアスをあげて。
和くんからピアスをもらうなんて。
「えへへ。なんか仲良しって感じだね?」
「……ああ。お前からピアスもらった時、ちょっとびっくりした」
「ほんと! ―――つけてみるね」
「貸して。つけてやるから」
耳からつけてたピアスを外してると、和くんがプレゼントのピアスを手に取った。
和くんの指が耳に触れて、ちょっとドキっとした。
だって、ともだち、だけど、和くんとは……シちゃったし……。
それにこの前すごく意味深なこと言われたし。
普段は平気なんだけど、なんだかいまは正直少し緊張してしまう。
「似合う」
左右つけてくれた和くんがふっと笑った。
「ほんと? ありがと!」
鏡で早く見たいな、そんなことを思いながら和くんの指が、まだ私の耳に触れていることに気付く。
耳たぶをそっとなぞられる。
「実優の耳、柔らかい」
「へ?」
どんな反応すればいいんだろう?
ほ、褒め言葉なのかな?
っていうか……私、耳弱いから、あまり触らないでほしいなぁ……なんて。
「顔赤い」
「え」
「取って食ったりしねーよ」
悪戯っぽく目を細める和くん。
からかわれてる!?
ちょっとだけムッとしてにらむと、和くんは小さく笑って―――。
「………っ!」
頬っぺたにキスした。
「メリークリスマス」
柔らかい和くんの唇の感触が残ってる頬を押さえる。
一気に顔が真っ赤に熱くなってくのがわかる。
「ま、これくらいはいいだろ? ともだち、でも」
和くん―――あの、それはやっぱりそう言う意味なのかな?
「……和くん、あの」
「俺は長期戦でも大丈夫だから」
「……えと」
「もう、実優を困らせるような無理やりなことはしねーし」
な?って、優しく笑って、ぽんって頭を撫でられた。
「う、うん」
「んじゃ、俺先に戻るな」
「……うん。私トイレ行ってから戻るね」
「ああ」
和くんは軽く手をあげてホールに戻っていった。
私はトイレに入って、後ろ手にドアを閉めて、
「びっくりしたぁ……」
深いため息をついた。
トイレの鏡で和くんにもらったピアスを見る。
ピンクの石がきらっとして可愛い。
可愛いけど―――私があげたのよりも絶対高い気がする。
いいのかな……。
ていうか、さっきのって……。
「実優ちゃん!」
ガチャってドアが開いたかと思うと、焦ったような声で呼ばれた。
勢いよく入ってきたのは捺くん。
「ど、どうしたの?」
驚いて尋ねると、捺くんは眉を寄せて私を見つめる。
そしてため息をついた。
「和にもらったの?」
捺くんの手が伸びて、耳に触れる。
「え、あ、うん」
「……さっき実優ちゃんと和の姿が見えなくなったから、めちゃくちゃ焦った」
不貞腐れるように捺くんは顔をそむける。
「えと……プレゼント貰ってただけだから……」
「ほかには? なんか変なことされなかった?」
「え?」
「怪しい」
「ええ? なんで!?」
なにも返事してないのに、怪しいって、なんで?!
「だって、実優ちゃん顔赤いよ?」
え、と思っておもわず鏡を見る。
確かにちょっと頬が赤くなってた。
「やっぱなにかあったんだ?」
「なにもないよ!」
ぶんぶん首を横に振るけど、捺くんは疑惑の眼差しのまま。
「キス―――」
その単語に、ちょっとだけ、頬がひきつってしまった。
それを見逃さない捺くんが怒ったように顔を歪める。
「キスされたの?」
「う、うん」
「え?」
「え? あ、ちがう! ううん!って言おうとしたの!」
「うそ」
「うそじゃな―――」
言い終わる前に、捺くんに唇を塞がれてた。
「んっ」
お酒の匂いが混じり合うキス。
後頭部を押さえられて、舌が口の中を這いまわる。
「………ぁ……っ」
お酒のせいか、捺くんのキスが激しいせいか、すぐに息があがって頭がぼーっとなってしまう。
少しして、捺くんから解放された。
息を整えながら見ると、捺くんはちょっとだけ満足したみたいに落ち着いてる。
「な、捺くんっ! キスなんてされてないの! ほっぺにちょっとキスされただけなんだよ?」
「なに、和ってほっぺたチューだけ?」
「そうだよっ」
だから、いきなりキス……しかもディープなのしないで!
って、そういう気持ちで言ったのに、捺くんは表情を緩ませて、
「よかった」
って、安心しきってる。
「捺くーん!」
「なに? もっとキスしてほしい?」
にこっと小悪魔な笑顔の捺くんにぶんぶん首を横に振ると、
「そんなに嫌がられたら傷つくんだけど」
って、ちょっと頬を膨らませた。
「……ごめんなさい」
「ううん。べつにいーよ。オレ、がんばるし。さっ、戻って飲もう! 今日は飲みまくろう!」
すぐに捺くんは気を取り直したように笑顔全開になると私の手を握ってホールへと連れて帰ったのだった。