secret 50 クリスマスパーティ・イブの夜

見上げると、どうやら捺くんが和くんの手を叩いたみたい。
ぐいっと捺くんが私の頭から和くんの手を押しのけている。
「触んなよ」
「俺の勝手だろう」
「………」
な、なんだろう。
和くんと捺くんに挟まれて……すごく居心地が悪い。
仲良しなはずの2人が火花を散らしてるような……?
「モテモテだねー、実優ちゃん」
あっけらかんとした笑顔でそう言ったのはマサ兄さん。
え、と思って口を半開きにしちゃってると、
「ほんっと! 私も女なんだからさー、存在無視しないでよねー」
って、続けて言ってくる七香ちゃん。
「「七香はどうでもいい」」
「はぁ?!」
和くんと捺くんがハモって、七香ちゃんが目を吊り上げた。
な、なんだか……。
さっきよりも居心地が悪くなったような気がするしー!
今から楽しい時間を過ごすっていうときなのに、ピリピリムード。
どうにか雰囲気を変えれないかなって考えて、プレゼントのことを思い出した。
「あ、あの! みんなにクリスマスプレゼントあるんだ!」
なんとか笑顔を浮かべると
「え?」
「ほんと!?」
和くん、捺くんが、驚いた声を上げる。
そんなに驚かれると、出しにくいな。
たいしたものじゃないし。
そう思いながらも、まずは七香ちゃんにプレゼントを渡した。
「きゃー! 可愛い!! 実優ありがとう!! あ、これ私からもプレゼント!」
七香ちゃんがすごく喜んでくれてほっとする。
私へのプレゼントをくれて、そしてストラップをさっそくつけてくれてた。
「七香ちゃんありがとうっ」
七香ちゃんからのプレゼントはリップグロスだった。
オレンジ系のゴールドっぽいちょっときらきらした色。
「つけてみよっ!」
可愛い色にドキドキしながらキャップを開けたら、隣から手が伸びて取られた。
「捺くん?」
右隣の捺くんがグロスを持ってる。
きょとんとして見ると、捺くんは満面の笑顔で、
「塗ってあげる」
と言った。
「え、いいよ」
「いいからいいから」
拒否するより早く捺くんの手が私の顎を押さえてくる。
近づいてくる捺くんの顔。
そして、突き刺さるような―――和くんの視線。
捺くんの隣にいる七香ちゃんと、マサ兄さんはにやにや様子を見てる。
「動かないでね」
キスしてきそうなほど顔を寄せて、囁く捺くん。
「う、うん」
思わずちょっと身を引いた私の唇に捺くんがグロスを塗っていった。
みんなに見られながら、男の子にグロスを縫ってもらうのって……なんだかすごく緊張する。
「はい、できた! かわいー! 似合ってるよ、実優ちゃん」
「ほんと、やっぱり私の選んだ色に間違いはなかったわ」
捺くんはすぐ離れてくれてほっとした。
七香ちゃんもすごく満足そうだし、
「確かに実優にあってる」
小さな声で和くんも言ってくれたし、嬉しいな。
テンションが上がってきて、次は和くんと捺くんにプレゼントを渡した。
2人はすぐに開けて、中を見て―――。
「かっこいい!」
って、捺くんは顔を輝かせてくれた。
すぐにつけてくれてる。
和くんも、つけてたピアスを一個外して私があげたピアスをつけてくれた。
青い石のついたピアス。
高いものじゃないけど、和くんに似合いそうだなって思ったんだ。
「ありがとう、実優」
「ううん。よかった似合ってる」
ちょっと照れたように微笑んでくれる和くん。
よかった。気に入ってもらえて。
「……ねぇ。なんで和はピアス?」
私の肩に手を乗せて、捺くんがもたれかかってきた。
「えっ?」
「キーチェーン、すごい気に入ったよ! だけど……。なんかピアスに妬ける」
「妬け……? な、なんで?」
拗ねたように頬を膨らませる捺くん。
「だってさ、身体の一部……って感じ……」
「あの、そんな深い意味はないんだよ……?」
「わかってるけどさぁ」
「――――捺、離れろ」
「………」
「………」
それまで黙ってた和くんが、私の肩に置かれた捺くんの手を払いのけた。
「“オレの勝手だろう”」
さっき和くんが言ってた言葉をそのまま返す捺くん。
「―――しつこい男は嫌われるぞ」
だけど怯むことなく、和くんが反撃した。
………あぁ。
なんだか私たちのところだけ空気が凍っちゃったみたいに、冷たい。
「あはは! ほんとうにモテモテだねぇ!」
「あー、もーこいつらウザい! 実優! 私向こうに行ってるね〜! あとでおいで〜」
マサ兄さんはカクテル作りながら、相変わらずニヤニヤ笑ってて、唯一私の味方のはずの七香ちゃんはうんざりした顔をして、楽しそうに盛り上がっているホールのほうに行ってしまった。
「………七香ちゃん」
半泣きになっちゃう。
がっくりうなだれてると、
「ごめん」
って、捺くんが言った。
「せっかく実優ちゃんが選んでくれたのに、変にケチつけるようなことして悪かったよ。ごめんね、実優ちゃん。
あと、和も」
イスに座りなおして、カクテルを飲みながら捺くんがぼそぼそっと謝る。
「……あぁ」
和くんもぼそっと頷いた。
「………うん、捺くん。もう気にしないで、楽しもうよ! せっかくのイブだし、パーティだし!!」
「そうそう。お前らもホールのほう行って来い」
マサ兄さんも楽しめって笑顔で促してくれる。
それから三人でホールへ行って、みんなと盛り上がりだした。