secret 43 終業式と保健室

「……実優」
無言の私に、先生が耳元で囁いてくる。
そしてチロり、耳を舐められた。
「っ、やっ」
びくって身体が震えて、逃げ腰になる私をがっちり捕まえて、先生は耳に舌を這わせる。
舌の先を尖らせて、耳をツーっとなぞっていく。
耳の孔に吐息と一緒にざらりとした舌が触れてゾクゾクって身体がまた震えた。
「耳弱いんだな」
楽しそうな先生の声。
先生が私の髪をかきあげて、うなじにキスしてくる。
「せ、せんせっ。人来たらどうするんですか?!」
「来ないよ。もう生徒たちだって帰ってるし、保健室になんて誰も来ないだろ」
確かに……終業式で明日から冬休みだから生徒たちもさっさと帰っちゃってるはず。
でもでも、って躊躇ってると、先生のため息が響いてきて
「わかった。選ばせてやるよ」
って言われた。
でもその選択は……ものすっごく、私にとっては意味のないもので。
「全身縛られてソフトSMか。制服着替えて、ノーマルプレイか」
どっちがいい?
って、先生は満面の笑みを浮かべてる。
「先生」
どっちもイヤ!!
って、言いたいけど有無を言わせないような先生の鋭い眼差しに、私が選んだのはもちろん……。
「着替えます」
ソフトSMなんて絶対イヤ!!!!
先生の膝の上から下りて、ぎゅっと前の制服が入った紙袋を抱きしめる。
先生はにやにや笑って
「着替えてこい」
相変わらず俺様な命令をしてくる。
「……覗かないでくださいよ!」
保健室のベッドのところで、カーテンを閉め切って着替えることにした。
「覗かないよ。着替えたら、そのままベッドに寝てろ」
「………」
「実優?」
「……はぁい」
なんで私、この変態エロ教師の言うこと聞いちゃってるんだろ。
でも逃げだそうとしたら絶対縛られそうだから仕方ない……よね?
何度も何度もため息をつきながら、制服を着替える。
そしてベッドに横になった。
布団をかぶって、天井を眺める。
私、いったいこんなところで何してるんだろう。
本当ならいまごろ家に帰ってお昼食べてるはずなのに。
それがなんで……先生のプレイに付き合ってあげちゃってるんだろ。
はぁ―――。
ため息をつきながら、私は目を閉じた。
カーテンの向こうで、物音がして、先生がベッドのほうへと来るのがわかって、背を向けて寝なおした。
シャッ、とカーテンが開かれる。
ギシッ、とベッドのスプリングが軋んで、枕元に重みが増した。
「橘」
えらく優しい先生の声。
「具合どうだ?」
「………」
せ、先生………。
思わず噴き出しそうになっちゃうのを必死で我慢する。
爆笑したいのを堪えるために身体にぐっと力が入った。
「橘?」
はい、なんて声に出したら、途端に笑っちゃいそうでそっと目を開けて、先生を見た。
「………は?」
そして、絶句してしまった。
枕元に手をついて、心配そうな演技をして、私を覗きこんでいる先生。
先生は……白衣を着てた。
「よ……用意周到すぎじゃ……」
最後までいわないうちに、先生からチョップをされた。
「いったぁい!!」
おでこを押さえて先生をにらむと、倍返しでにらみ返される。
「具合は、どうだ?」
さっきまでとは一転して、低い声で確認してくる先生。
「……えっと、あの……大丈夫……」
先生のこめかみがぴくって動くのを見て、
「じゃありません」
言いなおした。
先生は満足げに微笑んで、私の髪を撫でる。
「そうか。まだ具合悪いか。じゃぁ、ちょっと触診してみよう」
って言って、私の胸のところに手を伸ばしてきた。
とっさに先生の腕をつかむ。
「せ、先生! まさか触診とかいって全身さわりまくってエッチになだれ込むなんてベタな展開じゃないですよね!?」
「………悪いのかよ」
先生の脚本を中断したからか機嫌悪く先生が眉を寄せる。
でも、でも、ここは引けない!!
「悪いですよ! せっかくの保健室に白衣なのに! そんなのヤです!!!」
だって、保健室で保健の先生と禁断の×××
なんて!!
ぶっちゃけ萌えるのに!!!
先生の展開じゃ、なんかたんなるAVみたい!!
やだ!
「ふーん。じゃ、どんな展開ならいいんだよ」
「え」
「………」
「もしかして、私喋って」
「ました」
「………」
「実優ちゃん? どんな展開がお好みで?」
は、恥ずかしい。
これじゃまるで私がこの状況にノリノリみたいだよね。
いや……確かに……ちょっとドキドキしてたりするけど。
「実優」
「……はい」
「で?」
「……えーっと、教師だけど好きなんだって告白して、半分無理やりな感じで押し倒す、とか?」
「………」
「………」
沈黙になって先生がため息をついて、ベッドから離れた。
でもそれは一瞬で、先生が私の身体を挟むようにして手をついて、私を見下ろした。
「橘……。ずっと好きだった」
そして先生がそっとキスしてきた。