secret 21 金曜日はパラダイス!?

そのあと捺くんがプリクラを撮りたいって行ってゲーセンに連れて行かれた。
そしてプリクラ中に、キスしてきて!
呆然とする私の手には、ベタすぎにもほどがあるチューしてるプリクラが渡された。
………来週から捺くんの半径二メートルは近づかないようにしようかな。
あんな可愛い顔して恐ろしい!
ため息をつきながら、チュープリクラを封印するかのように机の引き出しにしまった。
ほっと一息つく。
机の上にある蜂蜜好きのディズニーキャラの置き時計を見ると8時をさしてる。
英語の宿題があったなあ。
9時から見たいドラマあるし、それまでに宿題終わらせちゃおう!
そう思って教科書を取り出したとき、携帯が鳴り出した。
誰からだろ?
折りたたみ式携帯を開いて画面を確認する。
「………えぇ?」
そこに表示されてたのは『晄人』という名前。
………え、ダレ!?
登録した覚えもないし、見き覚えもない名前に困惑する。
でもずっと着信は鳴ってて。一度切れたと思ったらまた鳴り出して。
私はしょうがなく、恐る恐る受話ボタンを押した。
瞬間、耳に飛び込んできたのは―――。
『おいッ! 俺の電話には2コール内で出ろ!』
と叫ぶ声。
「……え」
もしかして。
「……先生?」
『当たり前だろ!』
「えぇ? だってダレかわかんなかったんですもん」
『お前…、俺の名前知らなかったのか』
「松原ってことは知ってます」
『………』
「ていうか先生……、名前なんて言うんですか? 漢字難しくて読めなかったんですけど」
『………』
「先生?」
『……アキト! あきと、って読むんだよ! バカ実優!』
「バカは余計ですよ! あきとですね! あとでひらがなで登録し直しておこうかな」
『おい…』
「はい?」
『10分でマンションから出てこい!』
「……は?」
『いいか! 10分だからな!? 一分でも遅れたら……覚えてろよ?』
最後はとても低い声で言って、先生は電話を切った。
「なに、いまの? 意味わかんない! 10分とかマンションと……か」
マ、マンション!?
もしかして……。
あわてて私は自分の部屋からリビングへと向かった。
リビングにあるベランダからはマンション下の通りが見渡せるから。
窓を開けてると、冷たい空気に身体が震えた。
ベランダの手すりから身を乗り出して下を見る。
「……うそ」
一台の車が止まってた。
そして一人の男が車に寄りかかってる。
「先生!?」
先生、だよね……。
私の部屋は12階、それに夜だからはっきりはわかんない。
でも、そんな気がしてたら先生っぽい人が上を見上げた。
……目があった?
すると先生らしき人はーーー
「あと8分!」
夜のマンション。近所迷惑なんて気にもせずに、大声で叫んできた…。
や、ヤバい!
なんだか身の危険を感じて慌て部屋に戻ると手早く着替える。
なにを着ようかな、なんて思う間もなく、適当に着替えて携帯と財布をポーチに入れる。
とりあえず戸締まりをしてエレベーターに乗り込んだときには、あれから5分は確実に経ってそうだった。
エントランスを抜けて外に出ると、すぐそばに軽自動車が止まってた。
黒くて四角い車体。
CMでよく見かける車だった。
キレイだし新車みたいだけど……。
正直、軽自動車っていうのが先生のイメージに合わない。
そして先生は運転席に座ってて、私は急いで助手席のドアを開けた。
はあはあ息を切らせながら、先生、って呼ぼうとしたら、
「乗れ」
と、有無を言わせないような一言が降ってきた。
「え」
「寒いから早くしろ!」
さかせれてされて乗り込む。
バタンとドアを閉めると、途端に車は動き出した。