番外編 七香ツアーズin松原邸 2 

そしてピンポーンと、インターフォンを押す。
すぐに玄関が開いて
「みんな、いらっしゃい」
満面の笑顔の実優が出てくる。
春っぽいシフォン地のチュニックにレギンスを履いて、髪をサイドに一つでまとめてる実優は、やっぱり可愛い。
女の私からしてもぎゅーってしたくなる。
ほらほら、ユタカと捺なんてさ、これだよ、あれだよ。
実優見たとたんにデレーっとしちゃってんの!
ユタカはポーカーフェイスのつもりなんだろうけど、私は小学校からヤツと一緒だからね。
わかるのだ。
実優に会えただけで幸せ、みたいな目しちゃってさぁ。
捺も捺で、当たり障りのない笑顔浮かべてるけど、目がハートでいっぱいだよ。
いやほんと、こいつらも不憫だね……。
「どうぞ、入って?」
「はーい」
「お邪魔します」
「実優ちゃん、今日も可愛いね」
「実優、お邪魔します」
……っとに、こいつら。
いちいち名前呼びたがるな。
ま、こいつらは放っておいて、いまは松原よね!
「実優、先生は?」
「え、リビングにいるよ?」
私が訊くと、ちょっと照れたように顔を赤くする実優。
あーもう、可愛い奴めー!
そしてウザイヤツらめー!
後ろから負のオーラ漂わせてるんじゃないっつーの。
ちらっと後ろを見れば、相変わらずポーカーフェイスなユタカと、黒い笑顔を浮かべてる捺。
「先生、友達来たよ」
リビングに入って、実優が言った。
松原はでっかいソファーに座ってた。
………ていうか。
「ああ。―――どーも」
実優に頷いて、こっちを見た松原。
私服初めてみた、当たり前だけど。
しかもメガネかけてない。
しかもほんのちょっとだけ笑ってる。
し、し、しかもー!! め、めっちゃカッコいいんですけどー!??
いや、イケメンつーことは知ってたんだけどさぁ。
なんだろ、大人の色気??
Vネックのカットソーに細身のジーンズ。ラフなんだけど……オシャレな感じがするのはイケメンだから?
うわー、なんか目の保養になるな、これは。
「みんな、座って」
「はーい」
それぞれ頷いてソファーに座った。
けど……さ。
松原って……ずっとリビングにいるのかな。
なんだか実際喋るのとか初めてだし、元教師だし、なんか緊張しちゃうんだよねー。
「実優ちゃん、これお土産」
羽純が手に持ってたみんなで買ったお土産をキッチンにいる実優に持って行く。
「ありがとう。わ! シュークリームだ、美味しそう!」
「みんなで食べよう。お茶入れるの手伝うよ」
「ありがと、羽純ちゃん」
羽純は実優と仲良くお茶を淹れることになっちゃって。
リビングに残されたのは男三人に私だけ。
「………」
「………」
「………」
「………」
なんだろ、空気が淀んでるような気がするのは気のせい!?
誰か喋れー!!
「……な、なんかすっごい綺麗なマンションですねー!」
誰も喋らなそうだったから、自分から喋った。
場を明るくしようと思ったら、ちょっと声が裏返ったのはしょうがない。
「まあな」
短く松原が返した。
で、会話終了。
ちーん………。
「「「「………」」」」
「お待たせ〜」
神の救い!!!
実優と羽純が戻ってきた。
「はい、みんなコーヒーでいい?」
「ああ」
「実優ちゃんが淹れたのならなんでもいいよ」
「………」
なんだ、こいつら。
ユタカは優しい笑顔で頷いてるし、捺はいちいち余計な言葉多いし。
実優はにこにこして羽純と一緒にコーヒーを置いてく。
私たちには来客用のコーヒーカップとソーサー。
で。
「はい、先生。ブラックね」
「「「………」」」
ユタカと捺、ガン見しすぎ!!!
いや、私も思わず見ちゃったけどさ。
どうする?
ペアだよー! 実優と松原色違いのマグカップだよー!
うわわわわわ……。
「ふふ、ペアカップ可愛い。松原先生によく似合ってますね、そのブルーのカップ」
私の隣に座った羽純がにこやかに言った。
松原は一瞬ピクリとこめかみを動かす。
「…………あー、まぁ」
なんとも歯切れの悪い言葉。
でも、確かにいまの羽純の言葉は正直微妙。
だってさ。松原のブルーのマグはクマの可愛い絵柄が書いてるんだよね。
似合うかどうかって言ったら微妙……。
「……先生、なに? その不満そうな顔」
松原の隣に座った実優が軽く睨んでる。
「別に」
「先生だってクマ柄可愛いって言ったでしょ?」
「……言ったが、まさか俺の分まで買うとは思ってなかったんだからしょーがないだろ」
「ペアで、って言ったよ!?」
「はいはい。だから使ってんだろ」
「なに、その上から目線!!」
「「「………」」」
「仲良しだね」
「え!? そんなことないよー!」
楽しそうな顔で笑うのは羽純。そして照れたように笑う実優。
私もちょっと笑いたいけど、ユタカと捺の引き攣った顔見てると、なんとも笑えない。
捺、そんなにうらやましそうな顔してたらダメー!
ああ、こいつらに今度女の子紹介してあげようかなぁ……。
そんなことまで思ってしまった。