secret 123  大切で、大切な、ひと。  

「でも……そんな騙すようにして作った関係なんて、うまくいくはずなかったんだ。……だんだんと不安定になっていく実優を見て、どうしたらいいのかわからなくなった」
「………」
「様子のおかしい実優を見て、なにがあったのか聞きたいときもあった。だけど言って、先生がかかわってたら……。先生のことを思いだしたら嫌だと、なにも聞かずにただ慰めることしかしなかった。実優が苦しんで泣いているのがわかっても……。手放したくないって、ずっと悪あがきしてた」
「………」
「……この前の……日曜も……」
日曜……。
身体が震えて、ぎゅっと自分を抱きしめる。
「……実優の身体から……煙草の匂いがして―――。ほんとうは……もう無理だとわかってたのに、その匂いを消したくて抱いて……」
ゆーにーちゃんは瞳を揺らして、ふと笑った。
「……本当に……俺は卑怯で馬鹿なんだよ。実優の苦しむ姿なんてみたくないって、ずっと思ってたのに。―――結局、俺が……一番実優を苦しめてる」
吐き出された言葉に、目の前が、真っ暗になるのを感じた。
私は、いったい………なにをしてたんだろう。
なんてことを、してたんだろう。
私は、私は―――……。
「だからもう……終わりにしよう」
「………」
「先生への気持ちを……隠さなくっていい。……認めていいんだよ?」
ゆーにーちゃんが微笑みを私に向けて。
私は―――首を、横に振った。
「……んで。……ちが、ちがう、ちがう。私は、ゆーにーちゃんのことが好きなの」
ぼろぼろと涙がこぼれていってるのを感じる。
「先生のことなんて、なんとも思ってないっ」
「……それじゃあ、ホワイトデーのときは? 今日泣きそうにして俺に抱かれたのは何故?」
「……そ、……れは」
「実優。もう、いいんだ。素直になって」
「……ちが。……先生とは……もう終わってる。先生、学校辞めたの。結婚してお家の会社を継ぐって。先生は、私とは……なんの関係もない」
ゆーにーちゃんが眉を顰めて、私を見つめる。
「……結婚? それ先生から直接聞いたのか?」
「ちがう、けど。でも、先生は私のことなんてっ」
「じゃあ一度ちゃんと先生と話しなさい。実優の気持ちを伝えて、先生の気持ちをちゃんと聞いたほうがいい」
「……無理、だよ……っ」
「なぜ? 怖い?」
怖い?
なにが?
「……先生はきっと実優のことを―――」
「やめてっ!!!」
「………」
「先生のことなんて、関係ないっ。私はゆーにーちゃんが傍にいればいいのっ!! ずっと一緒にいるって、言ってくれてたじゃないっ」
「………実優。お前が……一人になるのを怖がってるのは……わかってる」
「………」
「俺はもう例えお前が他に好きな人ができたとしても、ずっと見守ってるから。だから、怖がらなくってもいいんだよ。先生と話しあって、」
「もう、先生の話はしないでっ。先生とはただのセフレだったの! 私は淫乱で、バカで、ただ先生とエッチしてただけっ!! そこに気持ちなんて、ないっ」
泣き叫ぶ私に、ゆーにーちゃんが眉を寄せて厳しい顔をする。
「実優……ほんとうはちゃんと自分の気持ちわかってるだろう? 本当に先生とは″セフレ″だった? ただの名目で、最初から―――惹かれてたんだじゃないのか?」
「………な……に」
最初、から?
「なんで、なんで、そんなこと、ない……。私はずっとゆーにーちゃんを……」
「じゃあ……仮に……先生じゃなかったら? 例えば″好き″だと実優に告白することなく、ただ身体の関係を……和くんや捺くんが求めてきてたら? 実優は″セフレ″になってた?」
「………っ……」
「なれた?」
「……だって、和くんたちは……友達、だから」
「だから、友達になるまえだったら? 先生のように出会って、先生のように身体の関係を持って、それを続けた?」
「……それ、は……」
考えられない。
そんなこと、ありえない。
「もし先生以外の人だったら、和くん達でもなく、まったく面識のない男にでも、実優はそうなったと言える?」
「………せんせい……は、強引で……」
「強引だから? 一度しか会ったことないけれど、先生は本当の意味で無理強いはしない人だと思うよ?」
「……私は……ただ、流されてただけ……。そ、そう……寂しくって、だから、だから」
「実優……、さっきの例えと同じだよ。寂しさをうめるだけなら、和くんでも捺くんでも、ほかの男でもいいはずだろう?」
「………て」
「なんで先生だった? なぜ、先生に流された? 先生と一緒にいられたら寂しさを忘れられた? なら、全部なぜ、先生じゃなきゃいけなかった?」
「―――や」
頭がズキズキする。
めまいがする。
なにも、なにも考えたくなかったのに。
「やめてっ!!! やめて!!! 違う、違う!!」
耳を塞いで、首を大きく振る私に、ゆーにーちゃんが近づいてきた。