secret 108  Border line  

10年前に見たのと同じく、夜のパレードはすごくきらきらしてて綺麗。
夕食はランドにあるレストランをゆーにーちゃんが予約してくれてた。
夕食のあとはパレード。
光の渦と歌が溢れて流れていくのを、いまワクワクしながら見てる。
ゆーにーちゃんと手を繋いで。
―――でも、お昼のパレードのときとはちがって、ほんの少しだけ冷静な部分が残って、考えてる。
ホテルでゆーにーちゃんが言ったことを。
ゆーにーちゃんと一緒に海外へ行くということを。
ゆーにーちゃんはよく考えてと言ったけど……。
隣にいる優しい人が一番大切な私の答えは―――考えなくっても出てなきゃいけない。
「キレイだねー!」
隣に座っている小さな女の子が目を輝かせてその横にいる父親らしき男の人に笑いかけてる。
それを微笑ましく思いながら、私は……天国にいるパパとママのことを想った。

ねぇパパ、ママ?
私とゆーにーちゃんがずっと一緒にいられるように祈ってて?
私がずっと。
ずっと"―――"ように、祈ってて。

光に溢れたパレードを私はしっかりと目に焼き付けた。
今日の日を、ずっと忘れないように。









***










休み明けの月曜日のお昼休み。
七香ちゃんたちにディズニーランドのお土産を渡した。
缶入りのお菓子なんていうすっごく無難すぎるのを選んじゃったんだけど、みんな喜んでくれたからよかった。
「いいなぁー! 彼氏と行ったの?」
七香ちゃんがパンを頬張りながら訊いてくる。
「うん」
「楽しかった?」
「すっごく!」
「いいなぁ〜!」
「七ちゃんも行けばいいじゃない」
羽純ちゃんが「いいなぁ」を連呼する七香ちゃんに苦笑した。
「そうだけどさぁ」
テスト開けてからお昼ご飯は七香ちゃんと羽純ちゃん、女の子だけでになった。
和くんはたぶん捺くんのところに行ってるんだと思う。
なんだかんだ仲がいい和くんと捺くんにホッとする。
そして楽しそうに話してる七香ちゃんと羽純ちゃんを見てると、やっぱりホッとする。
この学校に転校してきてもう3カ月がたつけど、ほんとにいいお友達ができてよかったなって思う。
ゆーにーちゃんについていくとしたら………。
みんなと離れることになるんだ。
向こうに行ったら、たった3カ月しか一緒に過ごしてない私のことを、二年先まで覚えていてくれるかな?
みんなが高校卒業したあとに帰ってきたとき、みんなは私のことをまだ友達だって思ってくれるのかな。
そんなことをぼんやりと考えちゃう。
たまに、思う。
なんで別れってあるんだろうって。
ずっと同じでいられればいいのに、ずっと楽しいままでいられればいいのに。
どれだけその日が楽しくったて、次の日は来て。
そして、かならず一緒にはいられなくなる日がくる。
どれだけもがいたって、同じ日なんて来ない。
それが当り前なんだけど。
すごく切なくなる。
ゆーにーちゃんと離れたくないっていう思いと、みんなと笑っていたいっていう思いに心が揺れる。
なんで、このままじゃいられないのかな。
「実優!」
「……うん? なに?」
七香ちゃんに顔を覗きこまれて、はっと我に返った。
「聞いてなかったな!?」
「ご、ごめん」
へらっと苦笑いを浮かべてごまかす。
「もう! 今度さ、私たちも女の子だけでディズニーランド行こうねって羽純と話してたの!」
「あ、そっか。うん、いいね」
「6月ごろとかどうかな? 梅雨シーズンだけど、雨のほうが人少なさそうだし! あえて!」
「そうね、たしかに」
「私たちみたいな可愛い子が三人歩いてたらナンパとかされないかなー」
「ふふ、七ちゃんたら。ミッキーが声かけてくれるわよ、きっと」
「羽純……。ミッキーじゃなくってイケメンがいいんだけど」
―――6月。
そのころ、私はどこにいるんだろう。
七香ちゃんたちの話に相槌を打ちながら、そんなことを思ってた。









***








3月10日は卒業式だった。
正直先輩とか知ってる人いないし、ピンとこないけど、粛々した雰囲気にやっぱりしんみりしちゃう。
でも式が終わった後はお祭り騒ぎみたいになってて熱気がすごい。
「ちょっと職員室に行ってくるね」
日直だった私は担任に持って行かなきゃいけないプリントがあって、それを持って職員室に向かった。
職員室のまわりは卒業生たちがアルバムを持って、先生たちに会いに来ててなんだか混雑してる。
開きっぱなしになってるドアのところで、一応「失礼します」って言って入る。
―――ぐるり、ゆっくり職員室を見渡して……。
担任のところへ行った。
「夏木先生、プリント持ってきました」
「あ、橘さん。ありがとう」
夏木先生はいつもより華やかなパステルピンクのスーツ姿。
「職員室、にぎやかですね」
ざわついている職員室の様子にそう言うと、夏木先生は「そうねぇ」と卒業生やその担任たちを見渡してる。
「いいわよねぇ、花束もらったりして」
「夏木先生だって、3年の受け持ちになったらもらえますよ」
「そうね」
クスクスと夏木先生は笑いながら、ふと思い出したっていう感じで私を見上げた。
「橘さんは、やっぱり花束あげるの?」
「……はい?」
意味がわからなくって首を傾げると、夏木先生は苦笑しながらちょっとだけ声をひそめて言った。
「松原先生」
「………え?」
「ほら、松原先生って意外とお疲れさまでしたとか言われて花束もらうの好きそうな感じしない?」
あ、こんなこと言ったって内緒ね。って、夏木先生は笑ってる。
ああ。
そうだった。夏木先生は―――先生の後輩だった。
「………そう、ですね」
「でもほんとうに急よね。教職ずっと続けられるって思ってたのに」
「………」
「お辞めになるなんて」
「………」
「まぁでも、お父さま―――」
「………あの、私、そろそろ戻ります」
「あら、ごめんなさいね」
喋りすぎたわね、なんて夏木先生は微笑んで。
私も微笑み返して、職員室を出た。
「―――そういえばさぁ、松原! 学校辞めるらしいよ」
「へぇ、なんでー?」
「なんだっけ。たしか父親の会社? 継ぐとかなんとか」
「うっわー! シャチョウ!?」
「あ、それそれ、私ウワサで聞いたけど、結婚して継ぐらいしよ!」
「結婚!? あの冷血教師がぁ?」
「政略結婚ってやつじゃないのー?」
「へー。ドラマみたい!」
あははは。
あははは。
笑いの渦、卒業生たちの、騒がしさに、私は―――。
ひどく、頭が痛くなった。