EXTRA GAME / Change 11

「なに、そんなにシたいのか?」
ソファーに倒れこむ。俺の上に実優が馬乗りになる体勢だ。
実優は戸惑ったように俺をじっと見下ろしている。
俺の下腹部あたりに座っている実優から妙な意味じゃなく伝わってくる体温になぜか安堵した。
「お腹が暖かい」
それをそのまま口にすると、実優は口を開き呆けた様子で「……は?」と呟く。
「だから、腹。ぽかぽかする」
こいつを見ているとやっぱりからかいたくなるな。
わざとらしく実優が乗っている部分に視線を向けると、実優もゆっくりそこを見て恥ずかしげに顔を赤く染めた。
「せんせっ!」
降りようとした実優の腰をつかみ動きを拘束する。
「そんなにエッチしたい?」
言いながら、腰を撫でた。
正直欲求ならいくらでもある。
もう何度も肌をあわせて、その抱き心地がいいことはわかっているのだから。
押し倒して、もうきっと潤っているだろうその中に指を埋めてかき回して―――欲に猛る自分を沈めたらどんなに気持ちいいだろう。
「………べ、別にっ! 私は―――」
「ふーん」
なにも考えず、ただ欲を発散させた方がいいのか。
「で、でも。別に……我慢しなくても……いいですよ?」
珍しく素直に、というよりかは催促するような実優に薄く笑いながら、内心揺れた。
躊躇う必要などないはずなのに、思うままにその肌を味わえばいいだけなのに、迷いが生まれる。
いや迷いというより―――……。
「へぇ。今日は殊勝な心がけ、だな? んじゃぁ」
ゆっくり半身を起こし、実優を見つめる。
潤んでいる瞳。
「実優、お前今日は――――」
その目を見ながら、めちゃくちゃに抱いてしまいたい気持ちになりながら。
「禁欲しろ」
俺はそう言っていた。
「………先生? 意味が……? どういったプレイですか?」
実優がよほど意味がわからなかったのか真剣な表情をした。
真剣なのはいいが―――っとに、こいつは。
「プレイで言えって?」
どんだけ期待してんだ?
というよりかはやっぱり俺が万年エロと思っているせいなのか?
あまりにも意表をつかれて、大笑いしてしまった。
「まー、強いて言えば放置プレイだな」
今夜は手を出さない。
禁欲、という言葉は実優だけでなく俺にもあてたもの。
「放置……?」
「そう。プレイじゃなく言えば、お預け」
実優は目をしばたたかせて、必死で考えている様子だ。そしてようやく思い至ったのか、ひどく不思議そうに俺を見つめた。
「今日はシないってことだよ」
ぽかんと口を大きくあける実優に再び吹き出しながら実優から離れ立ち上がった。
「風呂入れてくる」
「……は、はい」
呆気に取られたままの実優を残してバスルームに向かった。
広いバスルーム。そのバスタブに湯を張る。バスバブルがあったからそれも投入しておいた。
大きな音を立てて溜まって行く湯と、増えて行く泡を眺めながら自分が言った"禁欲"の意味を考える。
なんでそう決めたのか。
なんとなく今日はセックスありきじゃなく、なにもせずに傍にいて、実優に向き合ってみたいと思っただけだ。
なぜそう―――思ったのか。
頭の端で問いかける声がするが、それは無視した。
バスタブの向こう側には大きな窓がある。
夜の街並みは光りが眩いぐらいに溢れていた。
夜景をしばらく眺め、リビングに戻った。









風呂の用意が出来てから交互に入った。
どうあっても俺を万年エロと思っていたらしい実優は風呂に一緒に入るか、などと普段なら言わないようなことを言って来た。
その理由が俺が手を出さないから心配になったらしいが―――……ほんっとに、馬鹿だな。
しみじみ思いながら実優にとってもらったビールを飲んだ。
よく暖房の効いた室内。温もった身体に冷えたビールが美味しい。
一気に飲んでいると視線を感じ、同時に「先生?」と呼ばれた。
視線を所在なさ気に揺らしながら迷うように実優は口を開いた。
「あの、私ここにいていいんですか?」
「……あ?」
言っている意味がわからない。
どういう意味かと実優を見れば、実優はうなだれるようにして続ける。
「だってせっかくのクリスマスだし。まぁ今日はイブじゃないけど……。それにスイートだし。私みたいな子供じゃなくって、大人の綺麗な女性の……その、セフ……レさんとか呼んだほうが……」
なにかと思えば、くだらない。
どうしてそういう考えに至るのか?
俺が手を出さないことがそんなに可笑しいのか、とため息が漏れる。
「あのな。だから俺は万年発情期かよ、って言ってんだろうが。今日はまったり過ごしたい気分なんだよ。それにお前が子供だからどうのこうの関係ないだろ。俺は邪魔なやつをわざわざ傍にいさせたりしない」
テーブルに置いていた煙草を取り、火をつける。紫煙をくゆらせながらそう言えば、実優は安心したのか少し表情を和らげた。
「………それならいいですけど」
呟く実優に、本当に馬鹿だなと苦笑してしまった。
実優に言ったことは真実そのままだ。
わざわざ一緒にいる気が起きない女を傍に置くはずもない。
いまこうして実優とここにいるっていうことは俺自身がそうしたいと思ったからだ。
今夜は手を出さないと決めたのも―――……。
「そろそろ寝るか」
まだ夜の11時。いつもに比べれば断然早い。
それでも昼間のことを考えれば、早く休ませてやったほうがいいように思えた。
疲れをほんの少し滲ませている実優の頭をぽんと叩く。
素直に頷く実優と並んで歯を磨いて、そしてベッドにもぐりこんだ。
なぜか実優は迷った様子でベッドの端のほうに座りこむ。
「なんでそんなところにいるんだよ」
他人行儀な行動に、軽く笑いながら実優の腰を引き寄せた。
片腕で抱くようにして横になる。
ふわりと実優から漂ってきたシャンプーの香りと、首筋から香ってくるボディシャンプーの匂い。
どちらも同じブランドのアロマの香り。
俺も使ったから俺からも同じ匂いがしているかもしれないんだろうが、柔らかな肌から香り立つ匂いは甘くて悪い意味じゃなく酔いそうになる。
「おやすみなさい」
実優の声と、そのまぶたがゆっくり閉じるのを見ながら「おやすみ」と返した。
朝まで深く眠れればいいが。
手を伸ばし照明を落とす。暗くなった室内。
もう片方の手も実優の背にまわし、俺も目を閉じた。