EXTRA GAME / Delusion 1

悪友からクリスマスプレゼントが届いたのはイブの前日だった。
帰宅直後に届いた宅急便。軽い段ボールをリビングに運ぶ。
贈り主は智紀で。その時点で中身がろくなものじゃないのは確かだ。
昔から誕生日やクリスマスにわざわざプレゼントを贈ってくるが、いつだってどうしようもないものばかりだ。
この前、実優に使ったショーツだって、いくつかある大人の玩具も智紀が寄越したものだ。
実際のところ俺よりあいつのほうが間違いなく変態のはず。
贈った理由は『使用した感想聞かせて。良かったら俺も買うからさ』というふざけたものだ。
なんで俺があいつのためにテスト使用してやらなければならないのか。
「―――なんだ……これ」
散々胸の内で悪態つきながら段ボールを開け、固まった。
同封されてる手紙を読んでみる。
『この前、仕事手伝ってもらったお礼に特別サービスなクリスマスプレゼント贈ります。女子高生と楽しんでくれ!』
「………」
呆れ果てつつ段ボールの中からプレゼントを取り出す。
内容は―――白衣と聴診器にアダルトビデオだった。
「変態め………」
お医者さんごっこでもしろってことなのか?
あの馬鹿の頭の中を一度見てみたい。
そう考えながらも新作らしいAVを見てみることにする。
学校物らしいAVを視聴し―――ふと思いついたナイスアイデアに、俺は実優へとメールを送っていた。
『なんでですか?』
俺の指示メールにたいして疑問メールが返ってくるが、『持ってこい』とだけ返信してそのあとのメールは無視しておいた。
なんだかんだ言っても実優は持ってくるはず。
明日は実家のパーティーがあって憂鬱だったのが、少しだけ晴れた気がした。
さあ―――明日も楽しませてもらおうかな。おそらく実優からは『変態』だのなんだの言われそうな気がするが……。
AVを見ながら俺は明日の計画を立てていった。






***






翌日、クリスマスイブであり終業式の日。
「……橘さん……ですか?」
おどおどしながらも、不審者でも見るような眼差しを向けて、スーツ姿の女・夏木歩は言った。
夏木は大学時代の後輩で、同じ教師仲間。ちなみに夏木の恋人は俺の友人である吉見という男。
二人が付き合うように協力してやったのは俺と智紀。
そして偶然にも、幸にも実優の担任だった。
「そう、橘実優。適当に理由つけて放課後保健室に来るよう伝えてくれ」
いまは終業式直後。夏木を進路指導室に引きずり込んで実優への伝言を頼んでいる最中だ。
メールでも放課後保健室にと送ってはいるが、あの天然娘はぶっちぎりそうな気もする。
念のため、ちゃんと保健室に来るように釘をさしておかなきゃならない。
「……えと、でも…、あの……松原先輩……」
夏木は困った様子で視線を泳がしながらも、俺の伝言を受け取れないとでもいうように歯切れ悪く言葉を途切れさせる。
まあ、担任の立場で早々教え子をはいどうぞと差し出すようなことは言えないだろう。
夏木を安心させるために、意識的に爽やかな笑みを作って向ける。
「お前が心配するようなことはなにもない。橘にちょっと込み入った話があるだけだ。本人にも今日のことは伝えているが、忘れてたらと思ってな。夏木から伝えてて欲しいんだ」
できるだけソフトに言った。言ったはず、だ。
それなのに夏木は頬を引き攣らせている。
「……あの、松原先輩…」
「なんだ」
「………いつから……ロリコンに……」
「………」
「………」
「………夏木?」
「は、はいっ!」
いつもより声が低くなってしまったことは認めよう。
夏木は肩を震わせて、恐々と俺を見ている。
そんな夏木の態度を見てると、まるで俺を鬼かなにかと思ってそうな気がする。
ため息ひとつついて背広の内ポケットから封筒を取り出し、差し出した。
「ほら、これお前と吉見へのクリスマスプレゼント。開けてみろ」
鬼どころか俺がどれだけいい奴か実感しろ。
ほうけた様子の夏木は少ししてようやく受け取った。
恐る恐る中を覗いて、中身を取り出した瞬間目を見開いて固まった。
「………松原…先輩! こ、これっ!」
「ああ、お前らカップル、そのアーティスト好きだったろ? たまたまアリーナの最前列のチケットもらってさ。でも俺興味ないから、お前らにどうかなと思ったんだ」
笑顔を向けてやると、夏木はよほど嬉しいらしく顔を輝かせている。
―――だがそう簡単には渡さないが。ちゃんと返答を聞くまでは。
「あ、でももうチケット取ってたりしたか? いらないか?」
にっこり笑ったまま、夏木の手にあるチケットに手を伸ばす。
すかさず夏木はチケットを後ろにかくした。
「あ、あの、いります、いります!」
「そっか。そりゃ良かった。イブに好きなアーティストのライブに行けるなんて幸せだな?」
「本当に!」
「じゃあ、橘にさっきの件伝えといてくれよ?」
「もちろんです!」
勢いよく頷いた夏木は、一瞬後顔を青ざめさせた。
俺の話はもう終わったから、生徒の身の安全とライブチケットで揺れてるらしい夏木を構わず引きずり指導室から出る。
「頼んだぞ? 絶対伝えろよ?」
少しだけ声を低くして言えば、夏木は激しく首を縦に振った。
「わかったならいい。ほら、そろそろチャイム鳴るから教室行くぞ」
夏木の背中を押して促す。
一歩足を踏み出した夏木は振り返り、迷うような視線を俺に向けた。
そして、何かを決意したように口を開いた。
「松原先輩……、後輩としてひとつだけ……」
「なんだ」
「ろ……ロリコンは犯ざ」
「夏木。とっとと行け」
数段低くなった声と、引き攣った俺の笑みに夏木は顔を青ざめさせて逃げるように走っていった。
………ふざけたこと抜かしやがって。
あのカップルには後日この暴言の代償を払ってもらわなきゃいけねーな。
忌ま忌ましさに舌打ちしながら、俺も教室へと向かった。