EXTRA GAME / Fragment 7

「先生のバカ!!!」
叫び声とともに枕が投げつけられる。
それをすんなりキャッチしてから、投げてきた実優へと投げ返した。
「はいはい。いいから、シャワー浴びて来い。動けないなら、また俺が洗ってやろうか?」
ニヤニヤしながらシーツに生まれたままの姿で丸まって枕を抱え込んでいる実優へと言うと、実優は大きく首を振ってまた叫んでくる。
「断固拒否です! ぜったいイヤ!!! 変態!! ムッツリ!!」
「………」
っとに、こいつは、また鳴かせてやろうか?
思わず殺意を覚える俺に、不穏なものを感じ取ったのか実優は口を尖らせながらもシーツを身体に巻き付けたまま寝室を出て行った。
それを見送って俺もキッチンに向かう。
リビングにある時計は朝の11時を指している。
俺と実優が起きたのは9時半ごろだった。
最初に起きたのは俺。
寝ている間に寒かったのかなんなのか実優を抱きしめて眠っていたらしく、腕の中に実優がいて驚いた。
それでまあ密着していたのもあるし、朝からヤると約束していたのを思い出して、寝ている実優を愛撫していたらぼんやりと目を覚ましてきた。
『へ……? せんせー?』
寝ぼけてる実優に構わずに1回戦を初めて、よく睡眠が取れていたせいかやたらと身体がすっきりしていたから続けて2回戦を初めて―――。
終わった途端に、最初の台詞だ。
バカもなにも、お前だってヨガリまくってただろーが。
朝っぱらから相変わらずエロかった実優の痴態を思い出しながら、簡単な朝食の準備をしはじめた。
トーストと目玉焼きにウィンナーといたってシンプルなメニュー。
高校卒業と同時にはじめた一人暮らし。朝食は必ずとるのが松原家の鉄則だったから自炊はそれなりにしていた。夕食は外食が多かったが。
「………先生が料理してる……」
皿に料理を乗せていると、驚きに目を見開いている実優がぽかんとしながらキッチンの入り口に立っている。
「俺が料理したら悪いのかよ」
「だ、だって。なんか先生ってお酒飲んでおつまみ食べて、お酒飲んで、お酒ってイメージだから」
……俺はアルコール中毒かよ。
まぁ確かに毎日酒は飲んでいるから否定はしなかった。
珍獣でも見るような目つきの実優を一睨みしてダイニングテーブルにつくように顎で促した。
向かい合ってイスに座り、朝食をとりはじめる。
実優はトーストにジャムをやたらとぬりまくって美味しそうに口に運んでいる。
甘すぎだろ、と内心突っ込みながらコーヒーを飲んで、そう言えばと深夜のことがよみがえる。
こいつ―――夜中うなされてたよな?
怖い夢でも見たのか訊いてみようかと視線を向ける。口いっぱいにパンを頬張っている実優の顔色は至極良くて訊くまでもないかと思いなおし俺もまたトーストを口に運んだ。
「時間大丈夫なんですか?」
不意にかけられた質問になんのことかと視線で返す。
ウィンナーにフォークを突き刺しながら実優はリビングの時計から俺へと目を向けた。
「お昼から用事あるって言ってませんでしたっけ?」
「ああ。2時からだからまだ大丈夫だ。12時半くらいに出ればいいかな」
あと1時間程度はある。実優を家まで送って、それから―――。
時間の計算をするはいいが、用事の内容を考えたらうんざりとしたため息が無意識にこぼれていた。
「……先生?」
不思議そうに実優が首を傾げてる。
なんでもない、と首を振って憂鬱な気分を払しょくできそうなことを思いついた。
「おい」
「はい?」
「早く食え」
突然の俺の急かす言葉に実優はぽかんとしてる。
それを無視して手早く食い終えて、ちんたら食っている実優の口に目玉焼きを突っ込んでやった。
「っん、ぐ」
色気もへったくれもない声を上げて、むせている実優にさらに残りのトーストを食わせて。
空いた皿を片づけるとまだ咀嚼している実優をイスから担ぎあげた。
「……へ、せんせ?」
ジタバタもがく実優を―――寝室のベッドに放り投げて、覆いかぶさる。
「………あの?」
状況がわかっていないらしい実優に顔を近づけ囁く。
「メシ食ったし、3回戦な?」
憂鬱な外出の前に、もう一回楽しんでおこう。
ポカンとしている実優へとキスを落とし太ももに触れた。
そして顔を上げた瞬間――――。







***







「なに、その顔」
一瞬目を見開いたが、すぐにお腹を押さえて爆笑しだしたのはババア。
俺はそれを無視してリビングのソファに腰を下ろした。
リビングといっても俺のマンションのではなく、実家のだ。
昼からの用事はなんてことない実家からの呼び出しだった。
「どうしたの、美咲」
「お母様、見てよ! こいつの顔!!!」
紅茶を運んでくるお袋にゲラゲラと笑いながら俺を指さすババア―――もとい姉貴の美咲。
ブランド物のスーツを見にまとった姿は一見すればキャリアウーマン。
一般的には美形と言われる類にはいっているんだろうが……、ババアはババアだ。
とっくに三十路を迎えてくるくせに昔から口の悪さが変わらない。
もちろんそれは俺に対してだけで外面だけは異様にいいが。
「あら、晄人。冷やす?」
笑い続けている姉貴を気にすることもなく、そして俺を見ても驚くこともなく、ごく平然に首を傾げるお袋。
清楚な空気をまとった柔和な笑みを絶やさない母親。
美しい人に変わりはないが、俺と姉貴は父親似。長兄だけが母親似。
だがそれも外見のみの話で―――。
「いい」
「そう? そうね、痛みはそのまま受け入れたほうがいいわよ。きっと晄人の自業自得でしょうからね」
「………」
俺の頬にくっきりと残る真っ赤な、明らかに平手打ちされた痕を眺めてお袋は微笑んだ。