The Farthest Eden
01

―――深夜一時。
たくさんのヌイグルミがベッドサイドに並べられ、シーツは薄いピンクで統一されている。
シングルのベッド。
一人寝れば十分のその狭いベッドで、俺と―――妹は愛し合う。






『The Farthest Eden』





「っ……ん……ぁん」
ベッドの中で隠れるようにして抱きあってキスを交わす。
俺の手はなにも身につけてない妹・華奈の脚の間にあり、濡れた秘所に触れていた。
ぬるぬるとした蜜を指にまとわりつかせ、ゆっくりと中へ差し込む。
「……ぁ…ぁ」
指一本でもきつく締めあげてくるほどに狭い膣内。
華奈の唇を一舐めし離れると、今度は身体に這わせた。
まだ発育中の小ぶりな胸を空いてるほうの手で包み、もう片方を舐める。
甘い吐息が頭上で聞こえて、その身体が小さく震えるのにホッとする。
できるだけ感じさせてやりたい。
胸をしばらく弄ってから、さらに下へと唇を移動させていった。
「……んっ……おにいちゃ……」
華奈は俺の意図に気づいたのか押し止めるように髪を掴んできた。
でもそれはそんなに強くない。
羞恥と快感で迷うように添えられてるくらいのものだった。
その手を掴んで指を絡めながら、片手で華奈の片脚を持ち上げその間に顔を埋めた。
ずっと埋めたままだった指をゆっくり動かしながら、充血し存在を主張する蕾を舌先でくすぐる。
「……ぁ、や」
華奈の恥ずかしそうなだけれど気持ち良さそうな声。
それだけで俺も快感を覚えてしまう。
蕾を吸い上げながら指を折り曲げ動かし続ける。
暗い空間に響く卑猥な水音。
ぬるりとした蜜が指にまとわりつく感触に俺の欲望もはち切れそうなくらいに膨らむ。
きっと膣内に挿れればあっという間にイッてしまうと思う。
そのくらいに華奈の中は狭く、熱く蠢いている。
華奈の荒くなる息遣いを聞きながら俺は自分の欲をセーブしながらも華奈の蕾と甘い蜜を吸い上げた。
次第に小刻みに痙攣しだす身体に、絶頂が近いことを知る。
「っあ、だめっ……おにいちゃ……んっ……あっ!!」
指の動きを早くし蕾を甘噛みすると華奈は背中をしならせながら絶頂に達した。
一層熱く収縮する中の余韻を味わい指を引き抜く。
華奈の蜜は手の甲までしたたっていて、それを舐め取った。
「―――大丈夫か」
華奈の顔を覗き込む。
顔を上気させ、熱っぽい呼吸を整えている華奈は俺の顔を見るなりすがりつくように抱きついてくる。
「気持ちよかったか?」
「……うん」
恥ずかしそうにはにかみながらも頷く華奈にホッとする。
頬を撫でながら触れるだけのキスを落とした。
「お兄ちゃん」
「なんだ?」
「……シないの?」
「……また今度な」
俺の言葉に途端に華奈の熱で潤んだ目が泣きそうなものに変化して、不安げに揺れる。
その不安を取り除くように、きつく華奈を抱き締めた。
「華奈、好きだ……。まじで。だから、ゆっくり進もう?」
「……うん」
それは本心。
大事だからこそ―――最後の一線を越えることができないでいる、俺。
「お兄ちゃん……。キスして?」
甘えるように見つめてくる華奈の唇を塞ぐ。
華奈の心が和らぐように深いキスを交わして、お互いを抱き締めあった。
そして俺は華奈が眠りにつくのを見届けて―――隣の自室に戻る。
紛れもなく血の繋がった妹のことを想い、その内の熱さを思い出して一人欲を吐きだして、俺も眠りにつく。
それが俺たちの毎日だった。







日倉尚、日倉華奈。
紛れもない兄妹。
生き別れでも、再婚でもなんでもない、ごくごく一般家庭に生まれた普通の兄妹。
俺達は年子、それもよくあること。
両親は不仲でもないし、生活に何の不満もない。
だけど―――俺は華奈に恋し、華奈も俺に恋をしてしまった。
平凡でしかなかったはずの人生の、それが最大の非凡で。
"兄妹"というしがらみは俺と華奈を―――いや、俺を雁字搦めにしている。
一線を越えきれない俺と。
一線を越えるのを望んでいる華奈。
俺と華奈の関係は秘め事を含んではいるけれど―――どこまでも平行線だった。












「ごちそうさまー!」
食卓に華奈の元気な声と、同じく声そのままに覇気よくパンと手を叩く。
俺は食卓に並んだベーコンエッグをフォークでつつきながら洗面所に向かう華奈の後ろ姿をちらっと見た。
俺と同じ高校の制服。俺はあと1カ月で着なくなるけれど、華奈はあと一年間着る制服。
残りわずかしかない高校時代を目に焼き付けるようにその姿を目で追った。
リビングのドアがしまり、トーストの残りにベーコンエッグを乗せて口に詰め込んだ。
「ごちそーさま」
とキッチンにいる母親に向かって言って、俺も洗面所に向かった。
歯を磨いている華奈と鏡越しに目が合う。
小さく笑いあって、華奈が俺に歯ブラシを渡してくれる。
無言で、だけど空いたほうの手を繋ぎ、指を絡めながら歯磨きをする。
少しして足音が近づいてきて俺たちは手を離した。
洗面所に入ってきたのはオヤジ。
でかい欠伸をしながら歯を磨きだすのを横目に見て、俺は先にうがいをすませると一旦部屋に戻った。
それから15分後、
「行ってきまーす」
華奈が言って、俺もやる気なく同じセリフを吐いて自転車をこぎ出した。
俺の通う高校は自転車で10分ほどのところにある。
俺は自転車通学で、そして華奈は―――。
「寒いねー」
自転車の、俺の後ろに座ってる。
「そうだな」
華奈の部屋で過ごす夜以外、俺たちは兄妹という枠にあって、まわりは当たり前だけど俺たちを"兄妹"として見ている。
だから自転車の後ろに座る華奈は俺の制服を少し掴んでいるくらいで抱きついたりはしてない。
そもそも兄妹二人乗りで自転車通学するだけでも、華奈が入学してきたときはいろいろ言われたりもした。
俺は友達に"彼女"なのかと冷やかされたし、シスコンとも言われたし、華奈も華奈で入学したばかりだったから周りから好奇の目で見られたりした。
だけど仲がいい兄妹だと知れ渡ればそれも問題なくなる。
近づきすぎることはできないけど、それでも少しでも近くにいたい。
そう言った華奈の希望でずっと自転車通学を続けていた。
「ね、今度どこか行きたいな。電車乗り継いで遠くに」
「……そうだなー」
2月に入り寒さはピークになっている。かなり冷たい風を頬に受けながら前だけを見つめる。
知り合いにあわないような遠くで―――普通の彼氏彼女のようにデートしたい。
華奈の気持ちはわかるから、以前は月に一回はどこかへ足を延ばすようにしていた。
「合格発表、来週だよね。だから……そのあとの3連休にどこか行かない?」
俺が受験生ということもあってなかなか出かける暇もなかったけど、推薦入試の結果がもうすぐ出て、それ次第ではひと段落する。
大丈夫だろうと言われてはいるけれど、念のために一般入試も受けるようにしているからまだ受験勉強は続けていた。
「うーん……合格すればいいんだけどな」
「大丈夫だよ! だって文っちも大丈夫って言ってたよ!?」
文っち―――っていうのは俺のクラスの担任の文川。
「……文川の言うことなんてアテにならないからな」
教師のくせになんでも適当主義の文川の性格を思い出して俺は苦笑交じりに返事をする。
「………わかった。じゃあ合格したら……ね?」
「ああ」
2月の3連休、華奈がこだわっているのはたぶんバレンタインが近いかもしれない。
兄妹で同じ家に住んでいるんだから一緒にバレンタインを過ごすにしても"恋人"として二人きりで過ごす時間が欲しいんだろう。
「合格してなくっても、いまさらジタバタしてもしょうがないし……。一日くらいどこか行こう」
それに俺だって―――二人きりで過ごしたいのは一緒だった。
「ほ、本当?」
弾んだ華奈の声がすぐに問い返してきて、その素直さに頬が緩んだ。
兄妹だからいろんなことが制限されてる。
だから華奈が喜んでくれると嬉しい。
「ほんと。海でも行く?」
「海?」
華奈が身を乗り出して俺を見上げる。
落ちるなよ、って笑いながら頷いた。
「そ、海。冬なら人もいないだろうし」
「そうだね!」
「のんびり散歩して飯でも食って……」
「行く、行く!」
華奈は弾んだままの声で言うとぎゅっと腰に抱きついてきた。
「華奈」
もう学校の近くまで来てて、だんだんと生徒たちも増えてきてる。
人の目を気にして俺は戸惑うように華奈を呼んだ。
「あと5秒だけ」
背中に華奈の体温を感じながら5秒数える。
きっと長くかかるだろうと思ってゆっくり数えていた5秒は、意外に早く終わって華奈の体温は離れていった。
離れてしまえば冷たい風が俺達の間に入り込み、寒くて当たり前だったのに余計に寒さを感じる。
"兄妹"でさえなければ誰の目も気にせずに華奈をしがみつかせていたのに、それもできない。
ブラコンだ、シスコンだとすでに友達からは言われているけど、それでもどうしても人目を気にしてしまうのは俺の弱さだった。
好きでたまらない。
だけどできれば俺達の関係を否定されずに祝福されたい。
そんな甘いことを考える俺は、バカなんだろうか。
華奈への想いと、華奈からの想い、そして"常識"というものに俺の心はゆらゆら揺れていつも定まらない。
「ありがと、お兄ちゃん」
やがて学校へついて自転車置き場で華奈が降りた。
「ああ」
「華奈ー! おっはよー!」
「未来ちゃん、おはよ!」
華奈の友達で自転車通学の未来ちゃんがやってきて、華奈は俺に手を振ると二人校舎へと去っていった。
俺はそれを見送って遅れて校舎へと向かった。







***




俺と華奈の関係が始まったのは華奈が高一、俺が二年のクリスマスだった。
両親は結婚20周年目でふたりきり2泊の温泉旅行に行っていて、家には俺達だけだった。
想いを告げることはしていなかったけど、なんとなくお互い気持ちが通じているのはわかっていた。
それがおかしいことなのか、俺にはわからない。
物心ついたときから一緒にいる華奈。
お前が守ってやるんだぞ、と父さんから言われた言葉。
可愛くてしょうがなかった―――女の子。
"妹"だけど、俺にとってはきっと最初から特別な存在だった。




***







一般的に禁忌とされる俺と華奈の関係を抜きにすれば俺達の"日常"はいたって平凡だ。
俺達の関係を知る人はいない。
ただシスコンで、ブラコンだと冷やかされるだけ。
「おはよー」
2月に入り3年は自由登校になった。
だから教室にはちらほら空席もある。
俺はもう華奈と登校するのもあと1か月もないから出来るだけ学校に来たいと思っていた。
「はよ〜」
俺の前の席に友人の有村がやってきた。
「おはよ」
有村はバサッと俺の机の上にバイトの情報誌を載せて読み始める。
こいつは専門学校に行くのがもう決まっていて受験とはもう無縁になっている。
「バイトすんの?」
「暇だしなー。尚はしねーの?」
「……短期のってあるかな」
俺はまだ試験結果が出来ていないけど、興味があって覗き込んだ。
「そーだなぁ、大学遠いもんな」
バイト先近所だと、と有村が紙面に目を走らせながら他意なく笑う。
「でも大学入ってからもなんかするんだろ?」
「……ああ」
できるだけ、少しでも―――金を貯めておきたいから。
ぼんやりとこれから先のことを考え、ため息が出かけた。
それをなんとか飲みこんで紙面を読み始めた。