『最終話.還る場所』
澄み切った青空に、真白なふわふわとした雲が浮かんでいる。
風も空気も暖かい。
空とお揃いの色をした制服をきた男の子が砂場で遊んでいた。
男の子はスコップでトンネルを掘っている。
幼稚園の制服を泥だらけにして、掘っている。
そこへ花柄のワンピースを来た女の子がやってきて、一緒に遊び始めた。
「あたしね、きょう、おひっこしをしてきたの」
たどたどしい言葉で女の子は男の子に話しかけた。
「どこからきたの?」
ほっぺを泥でよごした男の子は優しい目で女の子を見る。
「とおくから」
穴を開けて、崩れそうな砂の山をポンポンと二人で固める。
「なまえ、なんていうの?」
「ナナ」
女の子はにっこりと笑う。
「ぼくはひゅうが」
男の子はにっこりと笑う。
「ひゅうがくん」
「うん。あのね〈ひなた〉ってかいて、ひゅうがってよむんだよ」
日向(ヒュウガ)は自慢げにそう言う。
「あのね、パパとママのだいすきななまえなんだって。ぼくもね、だいすきなの。ひなたって」
こぼれるような笑顔を見せる日向。
その時、幼稚園の門のところで女性が日向の名を呼んだ。
日向が嬉しそうに立ち上がる。
「ようちえん、くるんでしょ?」
日向は制服についた泥をはたき落としながらナナに聞く。
「うん」
「じゃあ、またね。ナナちゃん」
そう言って、日向とナナはお互いの小さな手をつないだ。
小さな握手。
「バイバ〜イ」
言って、母の元へ走っていく日向。
走りながら、ふと振り返るとナナがじっと見ていた。
日向は大きく手を振る。
「またねー、ナナちゃーん」
ナナもまた大きく大きく手を振った。
日向はようやく母の元へ走りつき、手をつないで歩き出す。
楽しそうな幸せそうな親子の後姿を見つめていたナナの頬に涙が流れていった。
なぜか、流れていた。
『パパとママのだいすきななまえなんだって。ぼくもね、だいすきなの。ひなた、って』
なにかくすぐったくって、心の中があったかくって涙が止まらなかった。
ナナのうえに暖かな陽射しが降り注ぐ。
ナナは空を仰いだ。
『きっとまた会えるよ』
風が吹いて、どこかで声がしたような気がした。
ナナは涙をふいて、そして笑った。
end.
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